インフルエンザの脅威

「今、インフルエンザが猛威をふるっている」と聴いて皆さんはどうお感じになるでしょうか。

今、たくさんのインフルエンザの患者が毎日クリニックにやってきます。それはここ数年になかったほどの数だといってもいいでしょう。昨年の暮れ、マスコミは「インフルエンザが全国的に流行している」と報道していましたが、今の流行はそれをはるかにしのぐほどの数だといっても過言ではありません。それなのに昨年の暮れに比べてインフルエンザに関する報道が少ないと感じるのはなぜでしょう。二番煎じのニュースにはあまりインパクトがないからでしょうか。それとも今の流行をそれほど大きな社会問題ととらえていないからでしょうか。いずれにせよ、国民はそうした報道の有無とは関係なく(おおむねマスコミ報道は「煽り(あおり)」みたいなものですから)正しい知識を得て行動しなければなりません。

先日の日曜日、私は休日診療の当番でした。私達、医師会の会員である内科医は市の保健センターで3~4か月に一度の休日診療をしなければなりません。それでなくても慣れない場所での診療は精神的に疲れます。使える薬も限られてきますし、なによりもいつもと違ってたくさんの患者さんを次々と診なければならないため、どうしても「数をこなす診療」になってしまうことも疲れる原因でもあります。もう少しちゃんと説明をしてあげたくても、待合室にあふれかえっている患者のことを思うとそうもいきません。ひとりでも重症の患者がいればなおさら。大幅に診療が遅れ、さらに待ち時間を延ばすことになるからです。そうした追い立てられるような診療は私にはとてもストレスなのです。

先日の休日診療で診た患者は155名でした。途中で応援の医師が来て診療してくれたので大混乱にならずにすみました。でも、診療が終わったときはもう疲れ果ててしまって何もする気になれませんでした。私のクリニックにもたくさんのインフルエンザ患者が来院していたので、さぞかし多いだろうと予想はしていましたがまさかここまでとは。155名の来院患者のうちインフルエンザ検査をした患者が135名。その135名のうち、A型インフルエンザとの結果がでた患者が15名、B型とでた患者が65名でした。一方で陰性だった75名の患者の中にもあきらかにインフルエンザ様の症状・所見を示している人も少なくありませんでした。私のクリニックでの検査結果も同じようでしたから、この傾向は全国的なものなのかもしれません。

これほどまでにB型インフルエンザがはやったことは少なくともこれまでの私の記憶にはありません。例年であれば圧倒的にA型が流行の中心であり、ときどきB型がやってくる程度なのですから。この傾向は今シーズン、インフルエンザワクチンが不足していたこととあながち無関係ではないと思います。ワクチンが不足したのは、生産途中でワクチンを作るときに使用する株を途中で変更して生産し直したことが原因です。特定のメーカーのワクチンが極端に供給量が少なくなってしまったのです。そのため、ワクチンは予約制で受けている当院でも予約数の制限をせざるを得ず、患者の皆さんにはいろいろとお不便やご迷惑をおかけしました。ここで改めてお詫びいたします。

当院はワクチン接種のときにだけ来院する子供が少なくありません。ですが、そういう形で来院してくれている小児患者へのワクチン接種はとくに断らざるをえませんでした。そうでもしないと普段ご利用いただいている患者さんに打てなくなってしまう恐れがあったからです。当院に通院していただいている患者の多くは高齢者です。こうした普段通院していただいている高齢患者に優先的に接種しなければならなかったのです。そうした対策をとったことに対してはお叱りの言葉を頂戴することもありましたが、まさに苦渋の決断だったものとご理解いただければ幸いです。これも当院にかぎったことではないと思いますから、結果としてワクチンを接種できなかった人はかなりいたのではないでしょうか。

ワクチンはインフルエンザにならないため、あるいは感染を広めないために接種するわけですが、と同時に、仮にり患しても重症化しないためでもあります。ときどきインフルエンザにかかってしまった患者から「ワクチンを打ったのに」と言われることがあります。しかし、ワクチンを打っても、十分に抗体ができなかった場合はインフルエンザに感染します。また、十分な抗体ができたとしても、体の中に入って来たウィルスの量が多ければインフルエンザを発症します。ただその一方で、ワクチンを打たなかったときに比べて、インフルエンザを発症したときの辛さはずいぶん楽です。このことは倦怠感や頭痛、悪寒や関節痛などのインフルエンザの辛さを味わったことのある人でなければわからないかもしれません。

B型のインフルエンザは概してA型にくらべて軽症が多いようです。A型のインフルエンザにり患した患者はたいがい身のおきどころのない辛さに顔をしかめながら来院します。普段ワクチンを打っていない人であっても、A型にり患すると「いつもの風邪とは違う辛さ」に懲り懲りするらしく、たいがいの人は苦しそうな表情で「来年からは打ちます」と言います。一方、B型は普段の風邪と間違うようなケースも少なくありません。当の患者はもちろん、診察している私達でさえも「これは風邪だね」と片づけてしまう場合もあります。今年のB型はそれが顕著のように感じます。症状といえば微熱程度で、「どうしても」という患者の希望で「やむを得ず検査をした」らB型インフルエンザだったこともあるくらいですから。

問題はここから。軽いB型インフルエンザにはたして「抗ウィルス薬」が必要なのでしょうか。先日の休日診療所でも、風邪とみまごうような軽症のインフルエンザ患者に「抗ウィルス薬をお出ししますか?」とたずねると、ほぼ全員が薬を希望していました。「早くよくなりたいので」というのがその理由です(実際には有熱期間を1日短縮するだけです)。以前であれば、重症感が強く辛そうにしている子どもに抗ウィルス薬を勧めても断る親ばかりでした。それでも服用を勧めようものなら「なに?、この医者」ととばかりに拒絶反応が強かった。「タミフルと異常行動の因果関係はほぼないとされていますよ」と説明しても、です。それが今や、抗ウィルス薬など必要のない軽症の子どもにも抗ウィルス薬を求める親のなんと多いこと。

検査もそうです。症状とこれまでの経過から明らかに「これは間違いなくインフルエンザ」というケースであっても検査を求める人がとても多い。先日の休日診療で135名もの患者にインフルエンザ検査をしたのはそうした背景があってのことです。内心では「検査は不要」と思いながらも「(検査をしに)せっかく来たのに」と不満そうな顔をされるのが嫌で検査してしまったのです。つまり、私の心の弱さの結果でもあります。前日、小児科でインフルエンザの検査を受けて陰性だったのに、「検査が早かったかもしれないから、高熱が続くようならまた検査を」と医者に言われてまた検査を受けに来た子どもの多いこと。この痛い検査をなんども受けなければならない子どもの身にもなってほしい。

なぜそれほどまでに検査にこだわるのでしょう。それは学校や職場に問題があります。「検査を受けて来てくれ」と患者(やその家族)に指示するからです。インフルエンザの検査は「インフルエンザであることを確認する検査」です。言い方を変えれば、検査で「陰性」がでたからといって「インフルエンザではない」ということの証明にはならないのです。つまり、「検査が陽性ならインフルエンザで、陰性ならただの風邪だから学校(職場)に来ていい」という代物ではないのです。本来、学校や職場は、「インフルエンザが流行しているとき、急に高熱が出たら検査の有無を問わず、陽性・陰性のいかんを問わずに学校や職場を休むよう指導する」ということ重要です。なのに・・・という事案が多すぎます。

インフルエンザの診断は検査でするものではありません。検査がなくてもインフルエンザだと診断することができます。「インフルエンザ」と診断されれば、学校や職場には胸を張って(?)「インフルエンザだった」と報告し、堂々と(?)と休めばいいのです。ところが、こともあろうに「検査をしてもらってこい」「A型?それともB型?」と検査結果を絶対視している学校(会社)が少なくないのです。これは実に馬鹿げたことです。流行が拡大した結果、重症患者が出てくる危険性はA型もB型も同じこと。だからこそこんなに防疫しているのです。そういう馬鹿げた指示を出す人は「検査が陰性なら来てもいいよ」「B型なら来てもいいよ」とでもいうのでしょうか。防疫の要諦がまるでわかっていない。

学校であれ職場であれ、インフルエンザが疑われるときは堂々と休める雰囲気を作っておくことが大切です。「よくぞ早めに申告して休んでくれた」と褒められるくらいがちょうどいいかも。また、インフルエンザには「5日ルール」があって、解熱したからといってすぐに登校(出社)してはいけないことになっています。解熱後もしばらくはウィルスが排出されていて感染力がなくなったわけではないからです。「熱が下がったら出社してこい」と指示する会社があるようですが、そういう乱暴な指示をする経営者(上司)には、学校でインフルエンザを広めているのは「熱がすぐに下がって嬉々としてすぐ学校に来てしまう子」だってことを知ってほしいと思います。

恐ろしいことに、学級閉鎖や学年閉鎖をなかなかしない学校もあります。その学校はたくさんの生徒(児童)がインフルエンザにかかっているのにさっぱり閉鎖しないのです。ある年などは、毎日、苦しそうにしてやってくるたくさんの子供たちを見ながらメラメラと湧いて来る怒りの感情を抑えきれずに教育委員会に電話してしまいましいた。するとその翌日に申しわけ程度の学級閉鎖(本当は学年閉鎖・学校閉鎖でもいいくらいなのに)が行われました。まるで焼き尽くすように全員インフルエンザにかかってくれと言わんばかりの対応に、お母さんたちの間ではその理由は「学年閉鎖をしてしまうと部活ができなくなるから」と囁かれています。こういう学校はインフルエンザで子供が死ななきゃわからないのでしょうか。

いろいろダラダラと書いてしましましたが、要するに、単に「不安だ」「怖い」ってことだけで行動してはいけないということです。今回の投稿の冒頭で「『インフルエンザが猛威をふるっている』と聴いたらどう感じますか」と書きました。私が言いたかったのは「インフルエンザは怖い病気ではない」ということでもなく、また、「インフルエンザは恐ろしい病気だ」ということでもありません。また、「検査は不要だ」ということでも「治療薬も不要だ」ということでもありません。それぞれの患者の状況に合わせて、主治医の意見を聞きながら冷静に対応することが大切だということです。マスコミの煽りに流されず、是非、理性的な行動をお願いしたいと思います。

最後に言いたかったことを箇条書きにしてまとめて終わります。

○検査をしなくてもインフルエンザだと診断してもいい
○インフルエンザの検査は「陽性がでれば確定」だが「陰性でも否定はできない」
○インフルエンザの検査が陰性であれば「他に感染させにくい状況」とはいえるかも
○他に感染させて重症化させることがあるのはA型もB型も同じ
○重症感のあるケース、あるいは基礎疾患のあるケースでは抗ウィルス薬が必要
○抗ウィルス薬は「ウィルスを増えないようにする薬」なので最後まで服用する必要がある
○抗ウィルス薬は「発熱の期間を1日程度短縮する」という効果があるにすぎない
○軽症にとどまっている場合は抗ウィルス薬は必ずしも必要ではない
○患者は「隔離」と「安静」が重要(4日以上の高熱が続くときは病院へ)
○流行時の急な高熱や重症感のある発熱はインフルエンザとして学校や職場を休むべき
○解熱したからといってすぐに感染力がなくなるわけではない(「5日ルール」)
○インフルエンザそのものよりも肺炎の合併がこわい
○つらい時は解熱剤や咳止めを使ってもいいが、頻回に使わないこと(重症化を見逃す) 
○「5日ルール」を守っていれば治癒証明は不要
○ワクチンは重症化を防ぐためにも、他の人への感染を防ぐためにも必要(自分のためだけではない)
○子どもや病弱者と接する職業は重点的にワクチン接種をすべき(この職種に「してない人」が多すぎ)

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