ワクチンの現状

今、松戸保健所管内において新型コロナウィルス(COVID-19)に感染する人が増えています。それは日本全国いずれの場所においても同じだろうと思います。毎日診療をしていても、「これはCOVID-19に感染したケース」と思われる患者がお盆前からとても増えているという印象です。現に、抗原検査をして陽性となる人も毎日何人もいて、感染が拡大していることはほぼ間違いないこと。インフルエンザもちらほら見かけますが、流行しているといえるほどの広がりはなさそうです。

「流行している」とはいっても、従来のCOVID-19のときとその様相はまったく異なります。まずは感染者の重症感の違いがあげられます。以前であれば重症になってしまうことを一番に心配しなければなりませんでした。しかし、今の感染者にそうした心配をする必要はほとんどないといってもいいでしょう。ワクチン未接種あるいは数年前から接種していない人たちは多少の重症感をともなっていても、ほとんどの感染者は「おおむね風邪症状」で済んでいます。数年前とはまったく違うのです。

なにがこの変化をもたらしたかについて考えてみると、その原因にはふたつの要因が考えられます。ひとつはウィルスの変異。もうひとつはワクチンの効果です。これまでなんども書いてきたように、ウィルス学においては「ウィルスは容易に遺伝子変異が起こる。そして、感染力を増すと同時に危険性は低下する」と教えられます。COVID-19のその後の遺伝子の変異はこうしたウィルス学の説にしたがって変化しているといえます。「感染者は増えているが重症者が増えていない」を裏付ける根拠といえるでしょう。

9月から新型コロナウィルスワクチンは「オミクロンXBB株対応」に変わりました。従来の「オミクロンBA.4株およびBA.5株対応」ではなく、あらたな流行株に対するワクチンになったのです。中国で発生したといわれる当初のCOVID-19は武漢株と呼ばれます。その後にウィルスの遺伝子は次々と変化し、アルファ株、デルタ株と呼ばれる変異株となっていきました。そして、2021年末にオミクロン株と呼ばれる変異型が出現。そのオミクロン株も、その後BA.4、BA.5といった亜株に、さらにXBB株に分かれていくのです。

XBB株は生体の免疫から逃れる性質をもっており、感染力が従来の亜株にくらべて強いことがわかっています。その感染拡大を阻止するために「XBB株対応」のワクチン接種がはじまったわけです。しかし、昨年の秋から接種が勧められてきた「オミクロンBA.4株、BA.5株対応」のワクチンが無効かといえばそうではありません。重症化あるいは入院する危険性を低減する効果も確認されているので心配ありません。ですから、あわてて「XBB株対応」のワクチンを接種しに行く必要はないのです。

実は、日本で流行している株はもはやXBB株ではありません。最新の報告を確認すると、日本やアジアの国々における流行株はEG.5.1と呼ばれるものに変わっているのです。アメリカやイギリスは今もXBB株が流行しているのとは対照的です。なぜそのような違いが生じたのか(変異のスピードが異なるのか)については今後の研究成果を待たなければなりませんが、個人的には人種の違いが大きく影響しているのではないかと思います。公衆衛生に関わる国民性の違いも間接的に影響しているかもしれません。

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昨日、コメントをいただいた方からご紹介のあった動画を観ました。ワクチンに関する噂ばかりをまとめた下世話なものではなく、大学の研究者が比較的冷静にワクチンの問題点を指摘した誠実な動画だったように思います。しかし、率直な感想を申し上げると、ワクチンに対する批判的な視点から構成されているようにも感じました。ワクチンについては中立的な立場の(と思っている)私にすれば、いくつか注意して見なければならない点があると思いました。そのいくつかを列挙します。

1)ウィルスと細菌の違いは無視できない

動画では「予防接種はかくあるべし」の代表例としてBCGが挙げられています。「BCGは確実に感染者の数を減らしているのに、新型コロナウィルスは感染の再燃を繰り返している(だからワクチンは無意味?)」という意図が透けて見えます。しかし、BCGは「弱毒化した細菌(結核菌BCG株)の菌体成分」を体内に直接接種して抗体を作るというもの。それに対して新型コロナウィルスワクチンは、ウィルスのいち部分(スパイクタンパク)を作るRNA遺伝子を注入し、生体の細胞自身にスパイクタンパクを作らせて抗体を生じさせるもの。BCGと新型コロナウィルスワクチンの効果を比較するのは正しくありません。

2)背景が異なる数字は比較できない

動画ではワクチン接種の有無や回数の違いが感染率にどう影響しているかを説明しています。そして、「ワクチンの回数が増えても感染率は低下するどころか増えている」と主張しています。数値を比較するときは、その前提条件が同じでなければなりません。感染者の数は検出する検査の感度によります。ワクチン接種が始まる前と接種回数が増えてからでは検査の感度は異なっています。当然のことながら検出感度はどんどん鋭敏になっています。つまり、それまで拾いあげられなかった感染者が最近では拾い上げられているのです。検査の数自体も比較にならないほど増えていることも見逃せません。

従って、動画で紹介されている感染率の推移をあらわすグラフは、ワクチン接種の回数ごとに単独で比較しなければなりません。そうすると年齢層が高くなるにしたがって感染率が低下していることがわかります。感染リスクの高い高齢者になるほど感染率が低下しているのはなぜか。それはワクチンの接種率が高いからという結論にもなります。本来は対人口あたりの重症者数で見るべきなのです。重症者のカウントは流行当初も最近もさほど大きな変化はないはず。これまでの重症者の数の推移を見れば、最近の流行の状況がいかに落ち着いているかが理解できます。その要因のひとつはワクチンなのです。

3)ワクチンには必ずリスクがある

新型コロナウィルスワクチンに限らず、すべてのワクチンの接種にはリスクをともないます。危険性のまったくないワクチンなど存在しないのです。その意味で、動画で解説していた研究者の「(接種してはいけないではなく)リスクを知った上で接種すべき」という意見は正しいと思います。新型コロナワクチンによる血栓症の報告は有名です。その発症機序も動画の説明で十分理解できます。ワクチン接種を繰り返すことによる免疫寛容(免疫力が低下すること)の可能性も決して想像上の話しではないと思います。逆に免疫力を高めてしまっている可能性を思わせるケースだってあるほどですから。

最近、当院に来院する帯状疱疹の患者が増えています。他の皮膚科のクリニックでも帯状疱疹の患者が増えているといいます。帯状疱疹はまさしく免疫力が低下しておこるもの。何ヶ月かおきに同じワクチンを接種するなどということは過去に経験したことはありませんでした。そうしたことによって免疫寛容がおこり、帯状疱疹となった患者が増えていると考えても矛盾はありません。もちろん確証はありません。しかし、蕁麻疹や円形脱毛といった免疫に関係する疾患も以前よりも目立ってきた印象もあり、最近の診療において感じる変化に新型コロナウィルスワクチンの影響があることは否定できないのです。

4)これまでを冷静に振り返ろう

あくまでも個人の感想ですが、副反応の問題はあったにせよ、ワクチンの効果は十分にあったと思います。「今、ワクチンを打っていてもこれだけ感染が広がっているからワクチンは意味がなかった」というのは極論です。また、「ワクチン接種の弊害」があるからといってワクチン接種を完全否定するのも間違いです。少なくともこれまでのワクチン接種を批判することはできません。ワクチン接種はリスクとベネフィットで考えなければならないのです。流行がはじまったころに懸念された医療崩壊。これを回避するためにはワクチン接種は必須でした。まれな重篤な副反応が懸念されていても、です。

しかし、ここまでCOVID-19感染症が軽症となり、感染者が多数いても重症者が少ない現状において、ワクチン接種がいまだに必須かといわれればそうでもないように思います。ましてや、血栓症や帯状疱疹、蕁麻疹などの、ワクチンと無関係とはいえないリスクを抱えてまで数ヶ月おきの接種をこれからも繰り返さなければならないのかという疑問があります。そろそろインフルエンザワクチンと同様に、年に一回の接種でいいのではないか、重症化リスクの高い人たちへの接種勧奨でいいのではないのか、と思ってしまいます。流行(とくに重症化)の状況に応じてワクチン接種をもっと柔軟に考えてもいいと私は考えます。

5)便乗商法に注意しよう

帯状疱疹が増えた印象がある、と述べました。それを裏付けるかのように、TVでは盛んに「帯状疱疹ワクチン」の接種を勧めるコマーシャルや番組がながれてきます。私も患者さんからたびたび「帯状疱疹のワクチンを打った方がいいでしょうか」と相談されます。そんなとき私は尋ねます。「あなたにとって2回接種で5万円を支払うだけの価値がこのワクチンにはありますか?」と。高価なワクチンを接種してくれれば当院も儲かるので助かります。しかし、帯状疱疹には治療薬があります。発症の前触れともいえる痛みもでます。早めに受診し、早めに治療薬を服用すれば、辛い目に遭うことは回避できるのです。

COVID-19であれ、インフルエンザであれ、治療薬がなく、重症化により命が危険にさらされる感染症を予防するためのワクチンは接種すべきです。しかし、治療薬もあり、早期診断・早期治療が可能な感染症に、あえてワクチンを接種する必要があるでしょうか?肺炎球菌ワクチンも同じです。もし、肺炎球菌による肺炎になったとしても、抗生物質で治療可能なこの感染症になぜワクチンの接種を勧奨するのでしょうか。しかも莫大な公費助成をしてまで、です。政治と行政と企業の癒着?と疑いたくもなってきます。繰り返しますが、ワクチン接種の賛否については、メリットとデメリットを考えて判断すべきです。

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いわれるがままに接種するのもダメなら、感情論にひきづられて完全否定するのもダメ。今回の動画のような医学的な内容にかぎらず、素人ではなかなか判断できないことも少なくありません。しかし、なにを根拠にするかわからないときは賛否両論に耳を傾けてみましょう。そして、矛盾がないのはどちらだろうか、と評価してみるしかありません。それにしても、今、振り返ってみると、いろいろなことがわかります。あのとき真しやかに言われていたことが実は意味がなかったことがいくつもあります。

そのひとつが「検査は早めに、できるだけたくさん行なうこと」でした。それでなくても信頼性の低い検査を「早めに、たくさん」おこなっても意味がないばかりか、偽陰性や偽陽性によって社会を混乱させるだけだと当時の私は繰り返しました。「検査は一番怪しいときにおこなう」という原則はやはり正しかったのです。そして、それは現在にも言えることです。「検査が陰性でも感染していないこと」を証明することにはなりません。にも関わらず、いまだに「検査をしてこい」と指示する会社・学校があとを絶ちません。

自分で言うのもなんですが、私のブログを読み返していただければ、放射線の危険性にしても、今回の新型コロナウィルスのことにしても、これまでの私の意見がいかに正しかったかがおわかりいただけると思います。検査をあれほど勧めた尊大な医学者や意味のない薬を治療薬だと投与して英雄気取りだった医師、ワクチン接種を情緒的に妨害した活動家や不必要な検査やワクチン接種で大もうけしていた人たちにもそれなりの言いわけがあるかもしれません。しかし、世の中を騒がし、混乱させたことには反省すべきです

専門的な知識のない一般の人たちに、ワクチンに関するどの情報が正しく、どの情報が正しくないかを判断するのは難しいと思います。とはいえ、その情報がなんらかの意図をもって世論を誘導・操作しようとしているのではないかと疑うことはできるのではないでしょうか。私自身、家族からは「まず否定から入る」とあきれられながらも、情報は常に批判的に吟味することはとても重要だと思っています。少なくともマスコミが主導しているながれを逆張りしておけばとりあえずは間違いない、というのは言い過ぎでしょうか?

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