コロナワクチンの現状(2)

多くの高齢者がワクチン接種を終えました。高熱がでて寝込むということも、また、頭痛や倦怠感に悩まされるという人も少なかったようです。「2回目の副反応がひどいらしい」という噂も必要以上に誇張されたことであり、私の母などは「副反応がぜんぜんなかったんだけど本当に効くのかしら」とワクチンの効果を心配するほどでした。ワクチンを接種する前はあれほど副反応のことを心配していたのに、私の母と同じような反応をした人も決して少なくないと思います。その一方で、人によっては「事前に解熱剤を飲む」などと言っている人もいました。今回は発熱とワクチンのことをあらためてまとめてみます。

以前のブログで、ワクチンの副反応は「あってはならないもの」ではなく、ある意味「ワクチンが効いている証拠だ」と書きました。ワクチンによってある種の異物がからだの中に注入されると、それらを排除する抗体をつくるために免疫細胞が働きだします。その働きを本格化させるために発熱が必要です。風邪をひいたとき、つまり風邪ウィルス(コロナウィルスものひとつです)に感染したときに熱を出すのはそのためです。つまり、発熱は「あるべき反応」なのです。私がこれまで「早めに風邪薬は飲むべきではない」、「むやみに解熱剤を飲んではいけない」というのはこういう理由からです。

ワクチンを打って熱がでる場合があります。とくに若い人たちのように、免疫力が強い人たちがワクチンを接種すると結構な熱がでるケースがあります。しかし、この熱発によってからだの免疫力にスイッチが入るのですからむやみに熱を下げるべきではありません。2009年のLancetという有名な科学雑誌に注目すべき論文が掲載されました。「ワクチン接種後の熱発を回避するため、あらかじめ解熱剤を飲ませると期待される抗体を十分に作れない可能性がある」というものです。つまり、高熱でつらい時ならまだしも、むやみに解熱剤を使って不用意に発熱をおさえることは免疫反応を鈍らせる、というわけです。

皆さんは「葛根湯」という漢方薬をご存知だと思います。私もこの漢方薬をしばしば処方します。そして、薬を出すとき患者さんには「風邪薬は早めに飲むべきではありません。早めに服用するなら葛根湯にしてください」と説明します。ただしこの葛根湯はまだ発熱のない風邪の初期に服用するべき漢方薬です。葛根湯は「発熱を促して風邪を早く治す」というものだからです。「からだを温めて風邪を治す」といった先人たちの知恵は現代の科学でちゃんと証明されているのです。こうしたことからも「風邪薬(解熱鎮痛剤)を一日三回服用」という使い方は誤りだということがわかると思います(※)。

では、接種のあとに熱発がない場合、ワクチンの効果は期待できないのでしょうか。そんなことはありません。日本の医療機関でワクチンによる中和抗体の量と接種後の熱発の有無を調べ、その両者にはほとんど関係がなかったことがわかっています。つまり、ワクチンの接種後に熱がでようがでまいが、ワクチンの効果に差はあまりないということです。言いかえると、「熱があっても、なくてもワクチンは効いている。でも、熱が出たからといってむやみに解熱剤を使わないことが大切だ」ということです(繰り返しますが、服用してはいけないわけではありません。つらい時は使用してもいいのです)。

今、日本で広く使用されているワクチン(ファイザー製・モデルナ製)はいずれもmRNAワクチンと呼ばれるものです。これらのワクチンの新型コロナウィルスに対する効果は95%以上であり、2回目の接種後数日でこの効果が発揮されるとされています。しかも、現在、猛威をふるっている変異株(デルタ株)にも90%程度の効果が期待できるといわれています。単に感染を阻止するだけでなく、感染しても重症化を回避する効力も確認されています。こうした効果は、不活化ワクチンである中国製、ベクターウィルスワクチンであるロシア製のワクチンの有効性をはるかに凌駕しています。

一時期イギリスで流行したアルファ株はすでにデルタ株におきかわりつつあるといわれています。感染力は従来のウィルスのおよそ2倍ともいわれ、なにやら恐ろしいことになるのではないかと不安になってきます。しかし、ウィルスの評価は、その感染力の強さだけではなく、病原性(重症化する可能性)という側面からも考慮しなければなりません。デルタ株の病原性の評価はまだ十分に検討されているわけではありません。デルタ株と類縁関係にある豚デルタ株は病原性が強いという報告があります。しかし、それは豚に感染した場合のものであり、人間に感染する株の病原性ではないという点に注意すべきです。

ウィルスにはワクチンが出現すると変異株が出現することが知られています。今回の新型コロナウィルスも、広くワクチン接種がおこなわれはじめた時期にアルファ株が出現しました。しかし、ウィルスの変異株については「感染力が強くなるにしたがって変異株の病原性は低下する」という傾向があるともいわれています。病原性が強い変異株は、宿主(感染した人)がすぐに亡くなってしまうためいろいろな人に感染を拡大させないからです。今回のデルタ株も、未確認の情報ではありますが「感染力は強さにくらべて、病原性はそれほど強くはなさそうだ」という意見もあるようです。

デルタ株の病原性についてはそろそろ公式な見解が発表されるでしょう。その公式見解がどうであれ、現行ワクチンにそれなりの効果が期待できる以上、不必要に怖がる必要はありません。沖縄の大病院で発生した新型コロナウィルスによるクラスター。感染した看護師十数名のうち12名はワクチンを接種をしていませんでした。このようにワクチンの効果がはっきりしてきたせいか、今まで「反ワクチン」の立場で新型コロナウィルスワクチンの危険性を吹聴してきた某研究者ですら、これまで自分が流布してきた見解を撤回しはじめています(ワクチンを打ちたくなってきたからでしょうか?)。

私たちはこれまで通り、正しい情報を正しく評価し、正しく恐れて正しく行動することが重要だということを再認識したいものです。

※ 熱がでたときは「つらければ解熱剤を使っていい」のですが、解熱剤を使ったからといって「発熱の原因そのもの
を治療する」ということではな
りません。あくまでも発熱の原因を突き止め、その原因を治療することが肝要です。

 

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