年末に感じること

早いもので今日で2022年が終わってしまいます。ここ数年、日本のみならず世界中が新型コロナウィルスに振り回されてきました。しかし、この2月に始まったウクライナ戦争は、世界の秩序を乱し、世界経済にも暗い影を落としています。ウクライナの悲しい歴史を多くの日本人は知りません。ウクライナ国民の多くはスラブ民族ですが、奴隷を意味する英語の「slave」はこのスラブに由来しているのです。

新型コロナウィルス感染症は中国の武漢に起源するといわれています。新型のウィルス感染症が人から人に感染し、重症率も鳥インフルエンザほどではないにせよそれなりのものであることは当初からわかっていました。このウィルス感染症はまたたく間に武漢から中国全土へと広がり、絶好調だった中国経済の勢いに乗って世界中に拡散していきました。それからの惨状は皆さんもご存知の通りです。

その新型コロナがようやく落ち着いてきたかと思った矢先のウクライナ戦争です。ウクライナは世界有数の穀倉地帯であり、一方のロシアは原油や天然ガスをEU諸国に供給する主要な資源国。その両者の戦争が世界経済に大きな影響を与えないはずはありません。しかも独立国家が公然と独立国家に侵略するという国際法違反は、領土拡大を目指す他の覇権主義の国家を刺激してあらたな危機を作り出そうとしています。

そんな不穏な空気、漠然とした危機感を感じながら迎える年末です。自宅のちょっとした大掃除を終えてホッとしていても、ふと「今ごろ、病院ではたくさんの人たちが不眠不休で仕事をしているのだ」、「暖房もままならないウクライナの人たちはどんな新年を迎えるのだろうか」という思いが心をよぎります。来年こそは日本中の、そして世界中の人たちが新年を祝えるようになりますようにと祈るような気持ちです。

昨日の夕方、NHK総合では年末恒例の「ドキュメント72時間 年末スペシャル2022」が放映されていたので、それをただぼうっと見ていました。最近のテレビ番組にはどれも興味がわかないのですが、年末に放送されるこのスペシャル番組だけは不思議と見入ってしまうのでした。かつてはテレビ局に勤めてこうした番組を作ってみたいと思ったこともあったからでしょうか。

この「ドキュメント72時間」の中で紹介された「看護専門学校 ナイチンゲールに憧れて」はとてもよかったです。関西のとある看護学校での生徒達の姿を追ったドキュメンタリーでした。看護師という仕事に興味があって入学した人もいれば、「漠然とした気持ちで(入学した)」という人もいる。美容師やCA(スチュワーデス)からの転職だったりとさまざまな背景を持つ生徒の72時間を取材したものです。

私も一般大学を卒業してから医学部を再受験したひとりでした。北大の同級生にも、同じような境遇で入学してきた人が10名ほどいました。年齢もバックグラウンドもさまざまでしたが、北大医学部のいいところはそうした学生ひとりひとりの背景に誰も関心を持たないというところ。現役合格したかどうか、多浪生であったかどうか、そんなことにこだわる学生もいません。それが北大を魅力的な場所にしています。

この「看護専門学校 ナイチンゲールに憧れて」はとてもいい番組でした。皆さんは戴帽式というものをご存じでしょうか。昔の看護師はキャップと呼ばれる看護帽をかぶっていました。看護師という職業を象徴するようなもので、病院によっていろいろな大きさや形状をしていました。キャップを見れば病院がわかるほどでした。しかし、病院での業務の支障になるという理由で今ではすっかり見なくなってしまいました。

それまでの看護学校では、看護に関する座学が一段落し、いよいよ病棟での実習が始まるときにこの戴帽式がおこなわれます。看護師としての象徴でもあるキャップを学生に授与するのです。この式を通じて看護学生はいよいよ看護師になるのだという意識を高めます。私の妹も看護師なのですが、妹の戴帽式のとき、私も看護学校に行って式に出席しました。厳かな雰囲気の中でおこなわれた式はとても感動的なものでした。

しかし、看護師のキャップがなくなるにつれ、戴帽式も廃止してしまう看護学校が続出しました。看護師になることを自覚する機会にもなっている戴帽式。この戴帽式の意義が再認識されて復活させる学校も最近増えてきたとも聴きます。取材された学校でも戴帽式が行なわれ、看護学生としての区切りとなる戴帽式に出席するために苦悩・苦闘するさまざまな学生の姿はまさに青春ドラマそのものです。

この番組は看護師でもある家内と見ていました。そして、私は自分の医学生・研修医時代を、家内は看護学校時代と重ね合わせて見ていました。見終わったとき、私たちふたりの口から思わず出た言葉は「初心を呼び覚まされるね」でした。医療系の学校はうれしいことや楽しいことよりも、辛いことや精神的に苦しいことの方が多いのですが、それでも頑張れるのはやはり自分の仕事に対するプライドがあるからだと思います。

今も病院ではたくさんの人が働いています。新型コロナウィルスワクチンは無効だとか、打っても意味がないだとか。その一方で、新型コロナウィルス感染症による死者は最多になっていて感染は広まる一方だとか。雑音は実に勝手なものです。病院で治療に専念する医師や看護師、薬剤師やその他の病院職員はそんな雑音とはまったく関係なく、目の前にいる患者を救うためにこの瞬間も奔走しているのです。

ゼロコロナ政策から大転換した中国では、新型コロナウィルスがまさに感染爆発し、SNSでは病室はもちろん、遺体安置所や火葬場も不足しているという動画が飛び交っています。そして、薬を求めて病院の熱発外来に人々が殺到し、薬局からは解熱剤が姿を消す事態になっているようです。日本もあのような惨状にならないとはかぎりません。日本人ひとりひとりがよく考えて行動しなければいけないのです。

とある芸能人が「ワクチンを打てば新型コロナウィルスに感染しないといったのに、なぜ新型コロナの死者が過去最多になるんだ」とツイートしていました。社会に影響力を持つ有名人がこの程度のツイートをするのにも困ったものですが、それに乗じて騒ぎを煽り、社分を分断するような医者(医師免許をもっている人たち)の存在にも困ったものです。医者にもいろいろいます。まともなことを言うとは限りません。

新型コロナウィルス感染症で亡くなった人の数が過去最多になるのには理由があります。まずはそれだけ感染する人の数が多いからです。これまでも繰り返してきたように、ウィルスは遺伝子の変異のたびに感染力を高め、一方で致死率を低下させていきます。今の新型コロナウィルスは季節性インフルエンザウィルスとくらべても致死率は低いとされています。亡くなった人の数だけで判断するのは間違いです。

また、大手の新聞社が「直近3ヶ月の死者数は前年の16倍」という見出しで記事を書いています。この直近の3ヶ月と比較された昨年の状況はどうだったでしょうか。当時の新型コロナウィルスの感染状況はきわめて落ち着いているときでした。感染者は今とくらべてずっと少なかったのです。そんな昨年と今とを比較して「16倍も増えている」と不安を煽る報道の目的はなんなのでしょうか。推して知るべしですが。

このウクライナ戦争でロシア軍は国際法にもとる非人道的な行為を続けていることが報道されています。しかし、よく考えて見て下さい。ロシアがそのような愚劣な手段をとるのは今回のウクライナ戦争に限ったことでしょうか。第二次世界大戦のとき、不可侵条約を一方的に破棄して北方領土を侵略したとき、あるいは、日本人入植者を蹴散らしながら満蒙国境を越えてきたときに彼等がどんなことをしたのか。

いや、アフガニスタンに侵攻したとき、あるいは、シリア戦争のときのロシアによる軍事作戦だって同じです。今のウクライナでおこなわれていることや、それ以上のことがおこなわれてきたはずです。それを我々は知らされなかっただけ。報道(ジャーナリズム)の使命はそうした世界の「隠された真実」を明らかにすること。国民・市民にそれらをありのままに伝えることです。煽ることでは決してありません。

来年はいったいどんな年になるのでしょうか。少なくとも、世界中の英知を結集して、新型コロナウィルス渦から逃れ、世界に平和と協調をもたらさなければなりません。そのためには「真実」を知らなければいけない。なにが正しく、なにが正義なのか。形而上学的な議論によるものではなく、よもやマスコミの論調にながされるようなものでもない。自分の頭を使って真実かどうかを見極めるのです。私自身はそう努力し続けるいち年にしたいと思っています。

皆さん、佳い大晦日をお過ごし下さい。来年が皆さんにとってより素晴らしい年になりますように。
Prosit Neujahr !

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