「熱中症」を再確認する

猛暑が続くと「熱中症」のことがしばしば報道されます。しかし、改めて「熱中症とはなんですか?」と質問されると意外とわかっていないことが多いようです。

熱中症とは、暑い環境にさらされて水分と塩分を失い、筋肉がつったり、強い倦怠感におそわれたり、体温調節ができなくなってショック状態にもなったりする病態です。単に水分が失われてへばった感じになる「日射病」とは異なり、命にも関わる事態が熱中症です。

ですから、「暑い環境、または大量に発汗する環境」に身を置いて調子が悪くなったら、熱中症の可能性を考えなければなりません。とくに体温調節ができなくなり高熱になっていると重症になっている可能性があります。脇の下が異常に熱く(体表面は意外に熱くないことがあります)、苦しそうなのに発汗がほとんどないときは直ちに救急車を呼んでください。

予防はなんといっても「汗を大量にかく環境にいない」ということです。これは一義的には「暑い場所にいない」ということですが、たとえ気温がそれほど高くなくても「湿度が高い場所」であれば同じことです。湿度が高いところは汗が蒸発せず体温がさがらないからです。ですから、夜、窓を開けたり、扇風機をつけて寝たとしても汗が蒸発して涼しいと感じなければ熱中症になる可能性があります。

第二の予防は水分と塩分の補給です。私は個人的に「薄めた味噌汁を冷蔵庫に冷やしておくこと」をお勧めしています。そして、汗をたくさんかいたときに補給するといいでしょう。ただし、血圧が高めの人や心臓や腎臓の悪い方は水分と塩分のとりすぎが体に悪さをする可能性がありますから、できるだけ汗をたくさんかかないようにして水分と塩分をとりすぎないようにすべきです。

よくスポーツドリンクをこまめに飲む、という方がいます。しかし、スポーツドリンクの中には50gを超える糖分が入っています。したがって、血糖値の高い人は要注意ですし、そもそも肝心の塩分はそれほど含まれていません。ですから、血糖値の高い人にとって、また、そうでない人にとってもスポーツドリンクは「こまめに補給する飲み物ではない」ことは確かだと思います。

ちなみに「ゼロカロリーだから大丈夫」という方もいますが、そういう飲み物はカロリー(ブドウ糖)はゼロでも、スクラロースやアセスルファムカリウムなどの人工甘味料がたくさん含まれています。これらは一度にたくさん摂取すると肝機能が悪くなることがあるといわれており、「ゼロカロリー=健康にいい」ということにはならないということに注意をはらう必要があります。

まとめると、熱中症はまずは予防。そのためにたくさん発汗するような環境(気温と湿度が高いところ)にはいないようにすること。万が一、汗をたくさんかいたときは薄めた味噌汁などで水分と塩分を補給すること。それでも熱中症かな?と思うような倦怠感がある場合は病院を受診すること。とくに発汗がなく重症感をともなう熱中症や意識がはっきりしない場合はすみやかに救急車を要請してください。

放射能と喫煙

とある有名な音楽家が中咽頭癌になり、その音楽家が反原発運動を推進してきたことから放射線治療をうけるかどうかが話題になっています。当初、彼が「反原発運動を進めてきた立場から主治医に勧められている放射線治療を拒否した」と報道されましたが、後に「治療法をどうするかは主治医と相談中」と訂正されました。

彼はかつてヘビースモーカーでした。中咽頭癌は喫煙や飲酒との関連も指摘されている病気であり、今回の癌の発症が喫煙と少なからず関係があるだろうということは想像に難くありません。「発癌性」という放射能の危険性を強調してきた彼が、喫煙によって癌になってしまうなどということは夢にも思っていなかったにちがいありません。しかも、その彼の癌を治療する主役が放射線になるかもしれないとはなんとも皮肉な話しです。

「喫煙は自己判断。放射能の被害は不可避」とその音楽家を擁護する声もあります。しかし、喫煙はタバコを吸っている本人だけではなく周りにも受動喫煙として影響します。さらに、喫煙には低線量の放射能の危険性をはるかに上回る発癌性があります。そうしたことを考えれば、彼には、この際、喫煙が持つ負の側面を総括し、社会に喫煙の危険性や恐ろしさを説明するべきでしょう。

一方で、彼は放射能の恐怖をことさらに強調してきました。「たかが電気のために(人間を放射能の危険にさらしてもいいのか)」とも言いました。しかし、科学的には低線量の放射能の危険性は証明できず、また、福島原発事故後、放射能による医学的影響は現時点で確認されていません。にも関わらず、放射能に関して一方的で情緒的で煽動的な活動をしてきた彼に影響を受けた人は決して少なくないと思います。

そんな彼が今になって放射線治療を選択するのは不合理だと言っているのではありません。それこそ「命に関わること」なのですから、放射能そのものを否定してきた彼であっても放射線治療を受ける権利は当然ありますし、また、放射線治療を受けるべきかもしれません。人類が科学の恩恵にあずかるためには、その危険性を乗り越え、可能な限り危険性をコントロールしながら科学を発展させなければならないのです。今回の病気を機に、彼にはこのことに気がついてほしいのです。

私は福島原発事故直後から放射能の危険性については冷静に判断すべきだと繰り返し強調してきました。そのことをレジュメにまとめて患者さんにも説明してきました。当時のマスコミは国民の不安を煽る情報ばかりを報道していました。その傾向は今も残っています。その意味で、中咽頭癌になってしまった彼が、これまでの、そしてこれからの自分を考える中で、「真に命を守る」ということがどういうことだったのかを改めて見つめ直してもらいたいと思います。

健康番組の功罪

「昨日、TVでやってたんですけど・・・」、そう言って受診される患者さんは少なくありません。どの患者さんも「もしかして自分もこの病気じゃないか」「この薬を飲めばよくなるんじゃないか」と、不安や期待を胸にして来院します。しかし、その多くの方はその不安が杞憂であることにホッとして、また別の人達は期待がはかなく裏切られてお帰りになります。

こんなことを言うとマスコミ関係の方に叱られてしまうかもしれませんが、所詮はマスコミの作った健康番組です。視聴者にチャンネルを合わせてもらえるように、あるいはチャンネルを変えられないように面白おかしく番組を作ってあります。普段、第一線で診療している身としては「そんなレアケース(まれな病気)をいちいち心配していたら時間も医療費もいくらあっても足りない」って思うことだって決して少なくありません。

健康への関心を喚起するのは大変いいことなのですが、ともするとマスコミは「煽るだけ、煽る」というような番組でセンセーショナルで一方的な情報を垂れ流します。原発事故や放射能のときもそうだったように、見る側にも「この情報は正しいのか」といった意識を常に持つべきです。その意味で、我々医療従事者も正しい情報を提供できるよう日々の勉強は欠かせません。

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