デング熱について

最近、デング熱がマスコミを賑わせています。海外渡航のない人にデング熱が発生したのは日本では久しぶりのようです。私も医学部を卒業してからデング熱などまったくの他人事でしたから、あらためてデング熱のことを調べてしまったほどです。しかし、個人的には、久しぶりにデング熱患者が発生した、というよりは、久しぶりにデング熱の診断が下された、という方が正しいのではないかと思っています。

というのも、デング熱の症状を調べてみると、「はしか」や「風疹」と間違うような症状だからです。もし、デング熱の患者が私のところを受診していたらまず「風疹?」なんて思ってしまいますね(今だから疑いますけど)。これはまったくの想像ですが、デング熱だったにも関わらず、インフルエンザだとか、風邪だとか、風疹だとか、はしかだとかに診断されてよくなってしまっているケースが少なくないと思います。もちろん、私もこれまで見逃してきたかもしれません。

【デング熱の症状】
①突然の高熱(発生頻度:99%) ②頭痛(58%) ③発疹(53%)④筋肉痛(29%)

ここでデング熱を強く疑うのは、上記の症状のほかに「血小板減少」や「白血球減少」が見られ、なにより流行している地域を訪れたことのある場合です。もちろん採血で確定すれば確実です。
ただ、誤解を恐れずにいえば、デング熱だからといっても多くの場合は風邪のように治っていきます。特効薬はないので、症状に対してそれぞれ薬を出すのみです。ですから、マスコミは「デング熱を疑ったら早めに医療機関を受診した方がいい」といいますが、重症化のおそれがなければ医療機関のなすべき「治療」は風邪の時と変わりません。あくまでも、医療機関では「重症化の恐れがあるか」を確認し、場合に応じて「デング熱であるかどうかを採血で調べる」だけです。不必要に心配する必要はないのです。あくまでも蚊を通じて感染患者が広がってしまうことが問題なのです。

もちろん、重症化する恐れがあることも念頭におかなければなりません。

【重症化を疑う兆候】
(1) 腹痛 (2) 持続的な嘔吐 (3) 粘膜出血 (4) 不穏

これらの症状が見られるようであれば、やはり命にかかわる状態に移行するかもしれませんので注意が必要です。ちなみに重症型デングとなる割合は数%といわれており、重症化を放置した場合の致死率は10~20%ですが、適切な治療を受ければこの致死率は1%に低下するといわれています。ですから、マスコミで大騒ぎするほど命にかかわる感染症ではないことがわかると思います。ただし、重症化するのは二度目の感染のときとされており、重症化の90%が再感染時といわれています。

これほど騒がれるようになると、マスコミにいろいろな医者が知ったかぶりをしてコメントします。しかし、マスコミがいつも正しい情報を提供するとは限らないことは最近の新聞の誤報騒ぎをみればわかります(この新聞社はあまりにも前科が多すぎますが)。世の中にインパクトを与えること(もっと言えば、世の中を騒然とさせること)を目的にしている報道もあるのです。何が正しいのか、何が真実なのかは皆さんの目で確かめ、理解できないことは真の「専門家」に聴く。できるだけ自分の頭で理性的に判断していきたいものです。