オミクロン株対応ワクチン

新型コロナウィルス感染症の流行(第七波)もだいぶ落ち着いてきました。感染者数は約1ヶ月前から減り始めていましたが、今や重症者数や死亡者数も減少を続けています。浮き足だったように騒がしかった世の中も次第に落ち着きを取り戻しつつあり、当院にかかってくる相談の電話もだいぶ減りました。

ワクチン接種も国民の8割の人たちが2回目を、6割の人が3回目の接種を終え、今は4回目の接種が進められています。2回目のワクチンを接種して5ヶ月が経過した時点での感染予防効果は50%程度(ファイザー社製)であり、発症予防効果はおよそ80%、重症化予防効果はそれ以上であることが示されています。

3回目のワクチンの接種が進行しているときに変異型であるオミクロン株の流行がはじまりました。そして、従来のワクチンがそれらオミクロン株に対して効果が若干劣っており、抗体価の低下が比較的早くはじまることがわかったことから、4回目のワクチン接種を前倒しでおこなうことになったのです。

当院でも4回目のワクチン接種をおこなっています。しかし、9月の半ばでファイザー社製ワクチンの供給がなくなり、すべてがモデルナ社製となりました。モデルナ社製のワクチンは副反応がやや多いという情報が広まっているせいか、モデルナ社製となってからワクチンを接種しに来る人の数もまた激減しています。

ワクチン接種者が激減している理由は三つあると思います。ひとつは前述したように、モデルナ社製であること。二つ目には新型コロナウィルスに感染する人の数そのものが減っていることがあげられます。もちろん、たくさんの人がワクチンを接種してくれたからこその効果だということを忘れてはいけません。

三つ目は、オミクロン株に対応するワクチン接種が始まることがあげられます。これまでのワクチンは従来型株に対するワクチン。新型コロナウィルスは途中から変異型遺伝子のB.A.2が流行し、先日まで流行していた株はB.A.5です。従来の株に加えてこれらの変異株にも対応する二価ワクチンが緊急承認されたのです。

いちぶの自治体ではこのオミクロン株に対応するワクチンの接種がはじまっています。4回目のワクチンとしてこの新しいワクチンを接種しようと現行のワクチンの接種を控えている人も少なくないはずです。そのせいか、当院での4回目のワクチンを接種しようと予約していた人にもドタキャンが増えてきました。

しかし、今いちどよく考えてみましょう。オミクロン株対応のワクチンは緊急承認された新しいワクチンです。もちろんこれまでのワクチンと同じmRNAワクチンであり、製法も多くの過程はほとんどかわりません。それが早期に承認された根拠になっています。でも、それで本当に安全だといえるでしょうか。

たくさんの人が従来にはない製法で作られた新しいワクチンを短期間になんども接種してきました。その短期的および長期的な安全性が十分に確認されないまま接種が進められました。それはその時点での新型コロナウィルス(COVID-19)が得たいの知れない恐ろしい感染症だったからです。

新型ワクチンは本来、その安全性を何年も検討してから承認されます。しかし、COVID-19が感染拡大しはじめたころ、いとも簡単に重症化し、たくさんの人が亡くなっているような雰囲気に世の中が包まれていました。日本のみならず世界が、忍び寄る目に見えない恐怖に騒然としていたのです。

そんなときに救世主として現れたのがmRNAワクチン。無毒化されたウィルスの破片を体内に注入するという従来のワクチンと異なり、ウィルスの遺伝子の一部をmRNAにして注射し、人のからだの中にウィルスのタンパクを作らせて免疫をつけるというまったく新しい発想でできたワクチンでした。

mRNAワクチンの利点は、遺伝子解析さえ完了すれがば比較的早くワクチンを製造できる点です。今回のオミクロン株対応ワクチンが迅速に製造されたのもそのためです。また、mRNAワクチンの副反応も当初心配されていたほどのものではありませんでした。当院でもヒヤッとするようなケースは一人だけでした。

現行のワクチンは世界中の多くの人が接種してきました。その数はこれまで存在していたどんなワクチンよりも多いものです。ですから、その安全性については、科学的見地からいろいろな報告がなされており、少なくとも重大な危険性はほぼないという結論がでているといってもいいでしょう。

しかし、このワクチンへの不安がぬぐえない人たちからは、ワクチンの長期的な影響を心配する声があがっています。免疫系に問題を生じるのではないか。あるいは遺伝的な問題を引き起こすのではないか、などとさまざまな懸念が示されています。もっともな懸念から荒唐無稽のものまで実にさまざまです。

長期的な問題点についてはこれからの解析を待たなければなりません。今はただワクチンの性質を考えて合理的、理性的な判断をするしかありません。ワクチンのリスクと新型コロナウィルスに感染するリスクを天秤にかけて判断することも大切です。それが「理性的かつ科学的に判断する」ということです。

これまで同じワクチンを何度も接種しなければならなかったのは新型コロナウィルスに感染するリスクをうわまわるメリットがあったからです。メリットとデメリットを勘案してのこと。しかし、今や、感染しても重症化することも、死亡することでさえも感染する人の数を考慮すれば限りなくゼロに近くなりました。

こんな状況になってもなおワクチン接種を強制するのは間違いです。ワクチン接種を前提に「なんとかキャンペーン」をすること、あるいはワクチン接種の証明書の提示を求めるといったことも同じ。With coronaという言葉が現実的に思える今は、ワクチン接種のあり方についてはもっと自由度があっていいはずです。

ひるがえってオミクロン株対応ワクチンのことはどう考えたらいいのでしょうか。冒頭にもお話ししたように、オミクロン株対応ワクチンは緊急承認されたばかりのものです。現行のワクチンの安全性を前提に承認されたにせよ、オミクロン株対応ワクチンそのものの安全性は十分に検討されたとはいえません。

新型コロナウィルスの感染拡大が落ち着き、ウィルスの病毒性も以前ほどではなくなった(ワクチンを接種しているということが前提ですが)今、そのオミクロン株対応ワクチンをあわてて接種する必要があるでしょうか。人は容易にマスコミからの情報に影響を受けます。ちょっと立ち止まって考えることが大切です。

患者さんから相談を受けたとき、私は次のようにお話ししています。「まずは4回目として現行のワクチンを接種してください。このワクチンも3ヶ月ほどで効果が弱くなります。そのころに第八波の流行がはじまったら、そのときにこそオミクロン株対応ワクチンの接種を考えればいいのではありませんか」と。

年が明けるころになれば、オミクロン株対応ワクチンの安全性に関するデータがでてくるはずです。問題なければそれでよし、多少なりとも大きな問題が生じているようであれば接種を控えることができます。慌てる○○はなんとやら。あおるような意見に左右されず、世の中の風潮にながされないことです。

ついに、ふたたび。

昨日(9月2日)の時点で、ついに青森県を除いた46都道府県で実効再生産数が1.0を切りました。東京にいたっては0.9を切る勢いです。これで今回の流行がピークアウトするのも時間の問題でしょう。しかし、油断は禁物です。しばらくは流行は続きます。どこで誰からうつされるかわかりません。うがい、手洗い、そして、TPOに応じてマスクをすることもお忘れなく。風邪症状はコロナ、と思って対応して下さい。

10月からはインフルエンザのワクチン接種がはじまります。今年はインフルエンザワクチンの供給量は潤沢とのこと。不足することを心配する必要はなさそうです。新型コロナウィルスワクチンとの同時接種も認められました。でも、私個人としては同時接種はお勧めしません。なぜなら副反応が生じたときどちらが原因かわからなくなるからです。少なくとも2週間はあけて接種することをお勧めします。

高齢者を対象に「オミクロン株対応の新型コロナウィルスワクチン」の接種もはじまります。その報道を知った人の中には、4回目のワクチン接種を控えてこの「オミクロン株対応」のワクチンを接種しようと考える人がいるようです。でも、これも私は推奨しません。それはこの新しいワクチンは「緊急承認」されたばかりのものであり、安全性が十分に検討されたものとはいえないからです。

今、4回目のワクチンとしてモデルナ製のものが接種されています。こちらでも十分に効果は期待できます。ただし、効果が持続するのは3ヶ月程度ともいわれています。とりあえず、従来のワクチンを4回目として接種し、来年になってまた第8波の流行となればそのときに「オミクロン株対応」のワクチン接種を検討すればいいと思います。それまでに不測の副反応の情報が出てくるかもしれませんし。

私も今日、職員と一緒に4回目の新型コロナウィルスワクチン(モデルナ製)を接種しました。今のところなんの副反応もありません。おそらく明日も問題ないような気がします。くれぐれもワクチン接種後に熱発があったからといってむやみに解熱しないでください。事前に解熱剤を服用するなんてもってのほかです。もちろん、高熱でつらいときは遠慮なく解熱剤を使ってください。こちらも冷静な判断をお願いします。