これまでの私のブログを読んでいただいた方にはおわかりでしょうが私は暑いのが苦手です。むせ返るような熱気の中でじっとりと汗ばむあの感覚が嫌なのです。エアコンがあるのが当たり前になり、どこへ行っても快適な生活が送れるようになりました。しかし、からだにまとわりつくようなあの夏の空気感が苦手なのです。好きな夏の風景もあります。じりじりと照り付ける強い日差しをあびて向日葵(ひまわり)が揺れる風景なんて夏らしくていいですよね。真夏のうるさいくらいのアブラゼミの大合唱も、少し秋めいてきた夕暮れ時のヒグラシの「カナカナカナ」という鳴き声も、風情があっていいものです。
寒い環境での生活が性に合っている私もそうですが、北海道の人はさぞかし寒さに強いだろうと誤解されています。しかし、北海道の人にはむしろ寒さに弱い人が多いのです。北海道を知らない人たちにとって、北海道は「冷凍庫のように寒いところ」であり、寒さが苦手という人たちにとっては「行きたくない場所」かもしれません。でも、冬の北海道に実際に来てみれば、厳冬の北海道がいかに「暖かい」かがわかると思います。外気気温がどんなに低くかろうと、建物の中の暖かさは北海道の右に出る地方はありません。なにせ氷点下の真冬の室内でTシャツになる暖かさなのですから。
先週から降り続く雪で、それまで雪が少なかった札幌もついに根雪になったようです。例年であれば12月になんどか降る「ドカ雪」に、クリスマスのころにはすっかり雪景色になっていた札幌。ところが最近の暖かさは私の学生時代とはあきらかに異なります。(以前のブログにも書きましたが)学生のころキュッキュッと新雪を踏みしめながら夜の静かな家路を急いでいるときのことです。ふと夜空を見上げると満天の星。そのとき私はなぜか幸せな気持ちになりました。冷たい空気を胸いっぱいに吸い込みながら「札幌に来てよかったなぁ」って。札幌の暖かい冬の風景はあのときと違ってしまったのでしょうか。
***************
早いもので、新型コロナウィルスに世界中が翻弄されてもう二年になります。その間、生活スタイルはもちろん、いろいろな価値観をも変えてしまったように感じます。一番端的な例はマスクです。それまでの日本はインフルエンザが流行しているときですらマスクをしている人は決して多数派ではありませんでした。外国人たちの目にはマスクをしている日本人たちは異様に映ったほどでした。それなのに今はその欧米の人たちですら多くがマスクをしている今の光景は二年前にはまったく考えられなかったこと。マスクをしている人としていない人との間でトラブルが起こるくらいになりました。
もともと日本人は外国の人たちにくらべて手洗いやうがいをすると言われてきました。潔癖症とも思えるようなきれい好きな日本人の特性が活かされたのもこの二年間だったかもしれません。当院では15年前に開院したときから手指をアルコール消毒する噴霧器を置き、インフルエンザのシーズンになれば待合室に空気清浄機を設置していました。第二診察室を作って感染症の患者はこちらで診察するようにもしています。建物内の空気のながれはこの部屋から外にながれるように設計してあるのです。そんな工夫が実際に役に立つときがやってくるは思ってもみませんでしたが備えあれば憂いなしを実感します。
また、以前から私は「かぜ薬は風邪を治す薬ではない。風邪をひいても早めに飲んではいけない。風邪症状を隠してしまうことでかえって感染を広げてしまう」と患者さんに説明してきました。また、「風邪症状のあるとき、とくに熱っぽい時やあきらかな熱があるときは仕事や学校に行かずに自宅で安静にしているべき」、「検査は安易におこなうべきじゃない。検査は一番疑わしい時にするもの」とも言ってきました。しかし、これまでの日本社会では「熱ぐらいで休むな、休めない」という雰囲気がありました。「検査してもらってこい(陰性だったら出勤しろ)」がなかばあたりまえだったのかもしれません。
今回の新型コロナの流行でそれが間違いだとわかってもらえたかというとそうでもなさそうです。いまだに「早く治そうと思ってかぜ薬を飲みました」といって来院する患者はあとを絶たないのです。「風邪を早く治すなんてことはできないんだよ。そもそも薬で治せる感染症じゃないんだから」と思いながら診察をすることもしばしばあります。風邪症状があるときは自宅で安静にし、症状がつらいときのみ症状を緩和するお薬を使い、肺炎などの合併症で重症化したことを見逃さないことこそが大切なのです。解熱剤の入ったかぜ薬は重症化を発見することを困難にしてしまうこともあるのです。
ワクチンも然りです。これまでインフルエンザのシーズンになってもワクチン接種をしない人は結構いました。医療・福祉施設や学校など、本来であればワクチン接種をすべき人たちの中にはワクチン未接種でも平気な人が少なくありませんでした。新型コロナウィルスだからワクチン接種が必要なのではありません。毎年3000人もの人が亡くなっていた従来のインフルエンザでもワクチンを接種することによって感染の拡大を阻止することは重要だったのです。ワクチンの接種はあくまでも任意であり強制されるものではありません。しかし、周囲に感染を広げないために不可欠だということを是非知ってもらいたいです。
来年の2月から当院でも三回目の新型コロナワクチンの接種(ブースター接種といいます)がはじまります。ふたたび通常の診療を制限して実施するため、多くの患者さんにはご不便をおかけすることになると思います。これまでも新型コロナワクチンを接種しているときに受診された患者さんからお叱りの言葉を頂戴することがあります。しかし、ワクチン接種後15分ほど経過観察をしなければならず、通常診療をすればワクチン接種のための方と通常診療のために来院した人とで「三密」を作ってしまいます。当院にはそれなりに広いスペースがあるとはいえとてもワクチン接種と通常診療を同時にはできません。
ワクチンを接種して急にからだの具合が悪くなった方がいれば迅速に対応しなければなりません。院内での対応マニュアルを作り、事前に職員と打ち合わせをしてそうした事態に備えてはいます。しかし、通常診療と並行してワクチン接種をおこなえば、職員の動きと意識は散漫になって混乱することは必至です。実際に今回のワクチン接種でも緊張するようなケースが2件ほどありました。幸い、なにごともなく終わったのですが、通常の診療と分離して接種をおこない、事前のマニュアルと打ち合わせをしていたお陰で対応できたと思います。従来のインフルエンザワクチンの接種と同じとはいかないのです。
***************
新型コロナウィルスはこの三年間になんども遺伝子を変異させました。そして、今は「オミクロン株」となって従来の株とは少し異なる性格をもっていることが徐々に明らかになっています。正式な発表にはなっていませんが、これまで私が集めた情報を少しまとめてみたいと思います。まず、このオミクロン株はそれほど恐ろしいものではないらしいということを強調しておきます。以前のブログにも書きましたが、「ウィルスは何度か変異を繰り返しながらその毒性は徐々に弱くなっていく」といわれています。新型コロナウィルスもどうやらその定説にそって変異しているらしいのです。
思えば「デルタ株」という変異株のときも、「感染力が従来のウィルス株にくらべて強い」としてマスコミはこぞって報道しました。今、そのデルタ株はどうなりましたか。「デルタ株」などという言葉すら登場しません。国民の8割が接種を終えるまでになった今、あのときマスコミが騒ぎ立てたような状況にはなっていません。オミクロン株も感染力の強さは従来の株を上回っているようですが、感染した患者の多くが軽症でとどまっています。実際、南アフリカでは患者は急増しましたが、重症者はそれまでの流行時よりも少なかったといいます。そして、最近ではすでに患者数が急激に減ってピークアウトしているそうです。
つまり、ワクチンをきちんと二回接種していれば、たとえオミクロン株にさらされたとしても必要以上に不安になる必要はないということです。感染しても大丈夫だといっているのではありません。ワクチンをスケジュール通りに接種し(韓国のように無計画に接種するのは効果を弱めます)、マスク・手洗い、人ごみを避ける、風邪症状があったら自宅内隔離で経過を見る、などの対応をしていれば、万が一感染してもなにも心配ないということです。高齢者や重篤な基礎疾患があったり、コントロール不良な糖尿病や呼吸器疾患などがある人はより注意が必要ですが、神経をすり減らすほどの心配は不要なのです。
今、東京での感染者はかなり少なくなっています。しかし、これはあくまでも「検査をして見つかった人」の数です。新型コロナに感染してもワクチンを接種している人にとっては「ただの風邪症状」に過ぎない場合が多く、自分が新型コロナウィルスに感染したとは思っていない人がほとんどだろうと思います。そうした人たちの中にはかぜ薬を飲みながら職場や学校に行ったりしいて周囲の人にうつしてまわっている人もいます。ですから、実際の感染者数は発表されている数字の何倍にもなっているのではないかと言っている人もいます。感染拡大を心配しなければならないのはまだワクチンを打っていない人たちです。
***************
これまでなんども「感染者の数」ではなく「重症者の数」に注目すべきだといってきました。感染しているかどうかを調べる目的はなんでしょうか。それは一刻も早く治療を開始することではありません。なぜなら、新型コロナウィルスに感染しても確たる治療方法が今のところないからです。検査をする一番重要な目的は重症化の危険性が高い感染者を見つけ、濃厚な治療を施す対象として見分けることなのです。決して無症状な感染者、軽症の感染者に「新型コロナに感染しているかどうか」という「結論」を示すことではありません。そうした軽い人たちは自宅隔離をして経過観察をしていればいいだけです。
東京でも「希望すれば無症状でも無料で検査ができる」ようになったようです。でも、そんなことをしていったいなんの役にたつのでしょうか。新型コロナウィルスの感染がはじまったころからずっと言われているように、無駄にお金をかけるだけでメリットはほとんどない(むしろ、偽陰性の感染者に「新型コロナ感染症ではない」という間違った墨付きをあたえるだけ)です。そうしたことは、広く検査を実施しても感染拡大を阻止することができなかった世田谷区や韓国の例を見てもわかりそうなものです。ものを考えられない、そして、経験を活かすことすらできない愚策だと思います。
先日、知り合いから「最近、ブログの更新がありませんね」と言われました。毎日があわただしく、ブログを書く時間がなかったこともありますが、なにより新たに書きたい、書かなくてはいけないと思うことがなかったのです。新型コロナへの対応については、この二年間、同じことをなんども指摘しなければなりませんでした。それほどまでに政府・厚労省の対応はお粗末で後手後手だったのです。ピント外れな批判や、国民を不安にする報道ばかりのマスコミ。医師会ですらずっとあの調子。いつも同じような失態、失策を繰り返すのですから書く気にもなりません。
6歳以上の小児にも新型コロナウィルスワクチンの接種がはじまります。根拠の希薄な何回かの議論であわてて決められたようで少々不安です。重症化する小児患者がほとんどいない新型コロナウィルス感染症。小児への感染力は強いかもしれないとされているオミクロン株ではありますが、風邪程度の症状で終わるかもしれないともいわれているのになぜ心筋炎の副反応が心配されるワクチン接種を急ぐのでしょうか。オミクロン株に感染した患者の濃厚接触者は国立大学の入試を受験できないというルールも拙速に決まりました。どうしてこうもバタバタとよく考えもせずに拙速な対策が発表されるのか。腹立たしいかぎりです。
もっと現場の人たちの声に耳を傾けるべきです。新型コロナ対策についてはずっと頑張ってきた医療従事者あるいは病院関係者が納得できる結論を出してほしいものです。肩書ばかりがご立派で現場の苦労や問題点を知らない専門家ばかりを集めた専門家会議など不要です。また、世間のいらだちや不安をあおって商売に熱心な医者や医療機関もいい加減にしてほしい。科学的には正しいことであっても、世の中のながれにさからうような情報を説明したり、行動することは難しく、その意味で、「検査をさせろ」「入院させろ」とつめよってきた人たちと関わってきた病院や保健所の人たちのこれまでの苦労は計り知れません。
なんの根拠もありませんが、おそらく来年の早い段階で新型コロナウィルスの第六波が発生するでしょう。しかし、すでに八割ほどの国民がワクチン接種を終え、来年1月からはブースター接種も本格的にはじまります。現在、日本で接種されているワクチンを3回接種すれば、これから流行が拡大するであろうオミクロン株への予防効果あるいは重症化阻止効果がかなり期待できるとされています。問題はワクチンを接種していない人たちへの感染だけです。日本では全国的なアウトブレイクにはまずならないでしょう。そして、新型コロナウィルス感染症に対する経口治療薬が出てくればもはやインフルエンザと同じ。もうひと息です。
今年も残すところあと数日。今年もいろいろなことがありました。良いことも悪いことも来年への糧にしたいですね。みなさんにとって、全世界の人々にとって、来年がさらに佳い年になりますようお祈り申し上げます。頑張りましょう。