ワクチンの現状(3)

今月から新型コロナに対する定期ワクチン接種がはじまりました。ワクチンについては、その接種に反対する「反ワクチン」の立場の人と、ワクチンはこれまで通りに接種すべきだとする人たちの間でちょっとした論争がおきています。従来のmRNAワクチンとは作用機序が少し異なるレプリコンワクチンの接種もはじまって、その論争はどんどん激しくなっているようです。

しかし、とくにX(旧ツイッター)をはじめとするSNSに飛び交う情報には、科学的に荒唐無稽なデマ情報も少なくありません。そうした怪しげな情報は、主に反ワクチンの立場のものが多いように感じます。そして、その情報に惑わされるのは一般の人たちのみならず、国民を守る立場の国会議員だったり、医学的知識をもっているはずの医療従事者だったりと、本来、理性的であるべき人たちも例外ではありません。

私はワクチン推進論者ではありません。だからといって、反ワクチンの立場でもありません。あくまでも必要なワクチンは接種すべきだと思っているだけ。そのワクチンの必要性は治療薬の有無や感染症の社会的影響によって決められるものだからです。でも、ワクチン接種の是非を、放射能被爆で大騒ぎしたときのように、イデオロギーにとらわれ、ヒステリックに決めつける人が少なくありません。

新型コロナウィルスに対する従来のmRNAワクチンは、たくさんの重症患者が救急病床に殺到し、病院の診療が逼迫して医療崩壊するのではないかと心配したころにはまさに救世主のような存在でした。より多くの人が接種を受けることによって、感染拡大を抑制し、重症患者を減らすなどして、医療崩壊を食い止めることに大いに貢献したことは、ほとんどの医療従事者が実感していることだと思います。

ウィルスは遺伝子を次々と変化させ、ワクチンの効果から逃れようとしました。しかし、mRNAワクチンはそれらの変化に速やかに対応し、世界中のパンデミックを克服してきたのです。今ではそうした危機的な状況は一変し、新型コロナに感染しても、多くがまるで風邪のような症状のままで治ってしまいます。重症化する人の数も以前とは比較にならないほど減少しました。そうした変化はワクチンのお陰です。

そんな感染状況が落ち着いている状況であれば、mRNAワクチン接種は必ずしも必要ではないと私個人は考えています。そもそも、mRNAワクチンも社会に登場してまだ数年のワクチンにすぎません。安全性を確認するための治験が十分だったとはいえないのです。ワクチンを接種し続けることによって生じるリスクと感染することによるリスクの天秤で判断すれば、mRNAワクチンの接種は今や必須ではないかもしれません。

レプリコンワクチンと呼ばれる新しいワクチンの接種もはじまりました。このワクチンについては、従来のmRNAワクチンからさらに進化した最新型のワクチン。その仕組みが若干複雑であるがゆえに、さまざまな憶測を呼んで、先にお話ししたような、実にさまざまな噂が錯綜している状況にあります。大学でそれなりに医学を学んできた(はずの)医師でさえ、そうした情報に翻弄される人がいるほどです。

理性的に考えられない人たちの中には、今の落ち着いている感染状況を見て、「新型コロナウィルスは大した感染症ではなかったではないか」「マスクもワクチンも本当は必要なかったもの」と主張する人がいます。数年前までの救急病院や感染症病棟での、悲壮感ただよう戦場のような状況を知らないからでしょう。ワクチン接種を勧めてきた人たちを批難する人すらいます。あまりにも軽率で短絡的な人たちです。

現在、新型コロナワクチンを接種しようかどうか迷っている人がいます。私はそうした人に次のようにお話ししています。「今の感染状況を見る限り、ワクチン接種は必須ではありません。ワクチン接種の必要性は【接種することによるリスクと感染した場合のリスクとの天秤】で決まります。mRNAワクチンも新しいワクチンだということを忘れてはいけません。長期的な安全性はまだ確立されていないのです」と。

もちろん、mRNAワクチンはこれまでの接種実績から、短期的には重大な健康被害がでるようなものではなかったようです。当初伝えられてきたように、「数十万人にひとり」の割合で重い副反応がでるという情報はおおむね正しかったことがわかっています。ワクチンは体内に異物を注射するもの。残念ながら健康被害が皆無ではありません。「接種のリスクと感染のリスクの天秤」で是非を考えるべきなのです。

レプリコンワクチンは最新のワクチンなのでなおさらです。とはいえ、自己増殖型と呼ばれるものであるため、「からだの中で無制限に抗体が増える」「ワクチンの効果が接種していない他の人に伝播する」「免疫反応が暴走する(低下する)」など、科学的根拠のない荒唐無稽なデマ情報が飛び交っています。中には「レプリコンワクチンを接種した人はお断り」と張り紙をするあきれたクリニックもあるとか。

そのような状況に製造元の会社は「科学的根拠のない情報を拡散する医療従事者や国会議員」に名誉毀損の訴訟を起こそうとしています。いい加減な情報がここまで広がれば威力業務妨害にもあたるからです。とはいえ、レプリコンワクチンは最新型であるがゆえに、安全性を確かめる治験が十分だとはいえません。新型コロナの感染状況が落ち着いている今、接種するのは時期尚早だといっても過言ではないのです。

思えば、放射能汚染で大騒ぎした経験を学んでいない人が少なくないようです。ただ「怖い」「恐ろしい」とたじろぐのではなく、また、無批判に多くの人と同じことをするのでもなく、自分なりに情報を集め、なにが正しくて、なにが間違っているのかを自分のあたまで考えるべきです。専門的で判断できなければ、いろいろな人の意見を真摯に聞く。ただし、情緒的な言葉で訴えてくる情報の多くには注意が必要です。

人々を煽り、社会を不安と混乱におちいらせようとの悪意をもっている人がいます。情緒に流されれば、そうした悪意の人に利用されるだけです。「零か百」で考えると見誤ることが世の中にはたくさんあります。ワクチンの接種もそのひとつ。副反応・副作用のまったくないワクチンはありません。だからといってワクチンを社会悪のように決めつけるのも間違い。できるだけ理性的になって判断してください。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください