はたしてロシアとウクライナは停戦に合意できるでしょうか。2022年2月24日、ロシア軍が国境を越えてウクライナ領に侵攻し、これまでウクライナ側の発表で4万5千人あまりの兵士が戦死。ロシア側にも10万人を超える戦死者が出たとされています(事実はこれ以上でしょう)。負傷した兵士は露・宇ともに戦死者の10倍にもおよびます。ウクライナの一般市民にも1万2千人以上の犠牲者が出ているといわれています。当初はロシアによる一方的なウクライナ侵略という形で報道されていた今回の戦争も、ドナルド・トランプという人物が出現してからはこれまでとは違った様相を呈してきました。今回はその辺のことを少し書きます。
ロシアがウクライナとの国境付近に軍を集結させ、両国の緊張が高まっていたとき、アメリカの当時の大統領であるジョー・バイデンは「アメリカはウクライナに軍を派遣しない」と声明を発表しました。それはロシア軍を挑発して緊張を高めないようにするための配慮だとする識者が多かったようです。中には「軍をこのままウクライナ領内に侵攻させるほどロシアは愚かではない」と楽観的な人もいたほどです。私自身もロシアが本当に戦争をするとは思っていませんでした。ですから、アメリカからの警告がありながら、ロシア軍がウクライナに攻め込んでいったとき、「なぜそんな愚かなことをするのか」と不思議でした。
19世紀のような、領土的野望から列強が周辺国を侵略するのが当たり前の時代ならともかく、東西の冷戦構造が崩壊し、世界中の国から独裁国家が一掃されたかのような現代にあって、どうしてロシアが武力まで使ってウクライナとの国境の変更を強行しなければならなかったのか。そのような疑問に答えてくれる報道は皆無でした。そこで私はインターネットを利用して調べてみました。すると、それまで知らなかった事実が次々と明らかになってきました。そして、それまで「陰謀論」だと一蹴されてきたことまでもが、実は今回の戦争の原因につながっていると思える情報が次々と明らかになったのです。
戦争がはじまった時、世の中は「ロシアの蛮行」として一方的に批判しました。「大国ロシアに侵略を受ける可哀想な小国ウクライナ」「ロシアがウクライナの次に狙うのはポーランドとバルト三国」と人々の危機感と恐怖心を煽る報道一辺倒でした。なるほどウクライナは「大国アメリカに立ち向かう小国日本」のようにも見えました。しかし、いろいろ調べていくうちに、ロシアがウクライナへの侵攻を余儀なくされた「ある事情」があったことがわかりました。それが「アメリカの世界戦略」でした。そんなロシアはまるで、アメリカの世界戦略によって戦争をするしかなかったかつての日本と重なります。
それらのことをまとめて次のような記事をブログに掲載しました。
************ 以下、2023年5月14日「軽薄な理想主義」
前略
ロシアとウクライナの戦争が続いています。しかし、その戦争にいたるまでの経緯を知らない人が少なくありません。ウクライナは、ロシアから欧州に向かうパイプラインの中継基地として重要な位置にあります。そして、その石油や天然ガスの利権にアメリカ企業が関与し、ウクライナをこれまで翻弄してきたのです。今の戦争にはアメリカの国際戦略が少なからず影を落としています。
とはいえ、ウクライナがロシアに負ければどうなるかがまるでわかっていない人が多すぎます。その歴史的背景がどうであれ、武力による侵略を受け、国境が力ずくで変更された国家は必然的に崩壊します。いつしか世界史から消えていくのです。これまでの世界史が繰り返してきたその恐ろしさをリアルに感じとることができない日本人が少なくないのはなぜでしょうか。
後略
************ 以上
************ 以下、2023年10月28日「歴史の転換点」
前略
今、ウクライナでは大規模な戦争が続いています。ウクライナにはチェルノーゼムと呼ばれる肥沃な土壌が広がり、「東ヨーロッパの穀倉地帯」ともいわれる世界有数の小麦の大産地になっています。南部のクリミア半島は温暖な保養地であると同時に軍事的な要衝でもあり、東西ヨーロッパの緩衝地帯として政治的に常に不安定な場所となっていました。ウクライナはかつてはキエフ公国という大国として栄えましたが、異民族の侵入をたびたび受け、モンゴル来襲をきっかけにその中心はモスクワに移ったのでした。
ロシアの大統領プーチンがウクライナを「特別な場所」というのはこのような背景があるからです。しかも、歴史的にソ連の一部だったころの影響で、ウクライナの東部にはロシア系の住民が多く住んでいます。東ウクライナに住む住民の30%あまりがロシア人なのです。ウクライナはロシアからヨーロッパに送られる原油や天然ガスのパイプラインの中継基地であり、ソ連時代から天然資源にまつわる利権が存在しています。そして、今般の戦争にその利権が暗い影を落としています。
後略
************ 以上
これまでこのブログで何度かアメリカ・カリフォルニア州にお住まいのYokoさんのお名前を紹介したことがあります。Yokoさんにはご自身のブログで私の記事をたびたび掲載していただいています。そうした縁もあって、日米の社会・政治状況についてときどき意見交換することがあります。生活する場所も異なれば、政治的な信条にも多少の違いがあります。しかし、自分とは視点のことなる意見を知ることは己の意見を客観的に見るために参考になります。先日も気になった動画をYokoさんに紹介しました。その動画は、2月21日にEU議会でおこなわれた米コロンビア大学教授ジェフリー・サックスの講演の様子です。
サックス教授は29歳でハーバード大学の教授となった秀才であり、自分の学問領域にとどまらぬ幅広い知識をもった経済学者です。ソ連が崩壊し、混乱を極める東欧国家の経済を立て直すために尽力した国際派の知識人でもあります。ヨーロッパとアメリカを往来し、ときに東欧諸国に長期滞在しながら、さまざまな要人との交流を通じて国際情勢を直に感じ取ってきた教授。私はこの動画を観たとき、「これがアメリカの良心だ」と思いました。1994年以降(実はそれ以前からですが)のアメリカの国際戦略の狡猾さ、傲慢さ、そして、強欲さに辟易していた私にとって彼はアメリカに残された「最後の正義」にすら見えました。
私がYokoさんにこの動画(「‘Europe needs an independent foreign policy’: Professor Jeffrey Sachs」)を紹介したのは、その内容がこれまでインターネットで調べて私が得ていた結論とほぼ一致していたからです。ウクライナとの国境を武力で変更しようとするロシア・プーチンに今回の戦争の法的な責任があることに異論はありません。しかし、なぜプーチンがそうせざるを得なかったのでしょうか。このウクライナ戦争を解決する糸口はまさにそこにあります。ウクライナ戦争がはじまってまもなく、ロシア・ウクライナ双方にはなんどか停戦するチャンスがありました。ミンスク合意がそのひとつです。
ところが、その合意が容易に破棄され、戦争は今や1000日を超えてしまいました。ミンスク合意が破棄されたのはなぜでしょうか。2014年9月にドイツとフランスが仲介して結ばれたその第一次合意はとても脆弱なものでした。そのせいか、翌年の2月には第二次合意がなされました。つまり、ウクライナ国内におけるウクライナ軍と親ロシア勢力との戦闘の停止を定めた第一次合意が守られなかったため、第二次合意ではさらに具体的な和平プロセスが決められたのです。しかし、それでもウクライナ軍と親ロシア勢力との戦闘は止まりませんでした。そして、ウクライナ国内ではその後もいろいろな衝突が繰り返されました。
今、頑なに戦闘を継続し、停戦にも懐疑的なプーチン大統領がこのミンスク合意を一方的に破棄したと報じられています。しかし、ミンスク合意が締結されたとき、私にはそのプーチンがたやすく合意したことに違和感を感じていました。現在、激しい戦争を継続しているプーチンを見れば見るほど、ミンスク合意のときのプーチンはまるで別人のようです。その理由はミンスク合意の欺瞞にあります。合意を仲介したドイツのメルケル首相はのちに「ミンスク合意はウクライナの軍隊を訓練するための時間稼ぎだった」と認めています。そのことがプーチンにアメリカやNATOに対する決定的な不信感とトラウマを植え付けたのです。
そもそもウクライナは、NATOのバックアップを受けてロシアと戦うことを決意し、停戦するつもりはありませんでした。その背後にはアメリカの意志があったのです。そうした経緯を、サックス教授は実体験を交えて淡々と訴えました。「ロシアにも戦争をせざるを得なかった理由がある。戦争を終わらせるためにはその部分を理解しなければいけない」とEU議会の人たちに語りかけたのです。私はそれをアメリカ在住のYokoさんに伝えたいと思いました。停戦という平和への第一歩は、ウクライナ戦争に至るアメリカの世界戦略にたいすて批判的な立場をとるトランプ大統領だから実現できる。私たちはそれを認めなければなりません。
サックス教授の動画を紹介した私のメイルにYokoさんから返事がありました。
************ Yokoさんからの返事(ご本人の許可を得て掲載します)
瀬畠先生
ジェフリー・サックス教授の分かりやすい英語で、感激して、講演動画を見ることができました。
先生が同じミシガン大学に研究生として派遣され勉強なさったことを話しました。
山根洋子コリンズ
************ 以上
先のサックス教授の動画の英語がわからない方、動画が長すぎると感じる方には次の動画が参考になるでしょう。EU議会でおこなった講演の内容を要約したものです。日本人にはありがたい字幕がついています。
「ウクライナ戦争のスタート。米ジェフリー・サックス教授インタビュー動画」
トランプ大統領は、次のような停戦を求めるメッセージをプーチン大統領に送ったといいます。「たくさんの若い兵士の命が失われてきた。人の命を救うためにお互いに努力しよう」と。プーチン大統領はそのメッセージに「私はその言葉を真剣に受け止めている」と答えたといいます。2014年におこなわれた「ノルマンディ上陸作戦70周年記念式典」でプーチン大統領は、広島に落とされた原爆のキノコ雲が巨大スクリーンに映ったとき、出席者の中から拍手が沸き起こる中、ただひとり胸で十字を切りました。ウラジミール・プーチンという人物がそれほどまでに敬虔な正教徒なのだということは、彼を理解する上で重要です。
ウクライナ戦争は停戦に向かって動き出しています。しかも、国家のメンツや威信のためではなく、人の命を救うために停戦交渉がなされているのです。私はそこに崇高な光が差し始めているように感じます。トランプ大統領はプロテスタント長老派。長老派はとくに社会正義と倫理観を重視する宗派だといわれています。そんなクリスチャン・トランプと正教徒・プーチンだからこそこの戦争を解決することが可能だといえるかもしれません。Yokoさんからのお返事に、私は次のようなメッセージを送りました。そのメッセージが今回のブログの結論です。一刻も早く停戦が合意され、ヨーロッパに真の平和がやってくることを祈ってやみません。
************ 以下、Yokoさんへの返事
Yokoさん
私がブログでなんども主張しているように、「私たちはイデオロギーや宗教観で世界・社会を決めつけてはいけない」ということが重要です。「事実を見よう、真実はなにかを考える理性を持とう」ということが大切です。その意味で、ジェフリー・サックスやミヤ・シャイマー、ロバート・ケネディJrのような人こそが「アメリカの正義」だと思います。弱者の味方だからではなく、「正義を語る」からでもない。ましてやリベラルだからでは決してない。真実がなにかを考えているからです。
そのことはこれまでの私のブログでも少し触れていますが、元アメリカ大統領でもあるハーバート・フーバーやコロンビア大学(ジェフリー・サックスと同じ職場であるとともにビクトリア・ヌーランドの現在の職場でもあります)の教授チャールズ・ビアードが「日米が開戦をした原因はアメリカにある」と本に書いています。彼等もまた「アメリカの正義」です。
アメリカは大国であり、望むと望まざるとに関わらず世界の警察官・裁判官にならざるを得ません。かつて、セオドア・ルーズベルト大統領が日露戦争を終わらすため(それは貧しい日本のためでもあり、また、革命前夜だったロシアのためでもありました)、日露両国の仲介に入ったのと同じです。だからこそアメリカには正義が不可欠なのです。アメリカが「尊敬される大国」となる前提です。
その意味で、トランプを色眼鏡で見ている人たちのメガネは曇っています。洗脳されていると言っても過言ではない。トランプがなにをしようとしているのか。そして、なぜそのようなことをするのか。それを正確に知り、評価することが大切です。冒頭に書いたように、「イデオロギーや宗教観で決めつけてはいけない」という態度が重要です。トランプのなすことすべてが正しいわけではない。しかし、彼を彼の言葉だけではなく、行動によって本当の姿を知ろうとすべきです。もしかすると彼は世界史に名を残す偉大なアメリカ大統領になるかも知れない。あるいは単なる道化師にすぎないかも知れない。それを観察しつつ、我々は真実を求めていくべきだと思っています。
************ 以上
メイルに登場したミヤシャイマー教授の講演の動画も参考になります。是非、ご覧になってください。