今、御嶽山では残された行方不明者の捜索が続いています。立て続けにやってくる台風と、迫りくる冬の間隙をぬって自衛官や警察官・消防士の皆さんが懸命の捜索活動を続けています。
御嶽山の標高は約3000m。気温は晴れていても10℃を超えることはなく、日差しがなければ0℃近く、風が吹けば体感気温は氷点下になります。寒いだけでも大変なのに、御嶽山の山頂の酸素濃度は地上の70%しかありません。空気がかなり薄いのです。そのため、捜索隊員の中には高山病になる人が結構いるようです。そりゃそうです。普通、3000mの山頂には時間をかけてゆっくり登るのに、彼らはごくごく短時間で、しかも重い装備を身に着けて山頂に向かい、到着後すぐに捜索活動を始めるんですから。
人間の体に取り込まれた酸素の量は「酸素飽和度」という指標で測定します。通常は99%とか98%です。ところが激しい運動をするとこの酸素飽和度は下がっていきます。その酸素不足を補うために呼吸が荒くなるわけですが、山の頂のような空気の薄いところではいくら呼吸をしても酸素量は増えません。それはまるでビニール袋を口にあてて呼吸しているみたいなもの。相当苦しいものです。御嶽山で捜索している人たちはそんな環境の中で、寒さと戦い、その上、重い装備を身に着けながら頑張っています。
ところが、ネットでは「自衛隊員なのに高山病になるなんて情けない」みたいな心無いコメントが見られるとか。感謝しこそすれ、批判するようなことではないのに。
一方、自衛隊のヘリコプターがこの隊員たちを輸送しているのですが、実は、このヘリコプターの活動も人知れずすごいことなのです。ヘリコプターはプロペラを回して空気を下に送って上昇します。ですから、空気が薄いところでは挙動が不安定になったり、墜落したりする恐れがあります。そこでヘリコプターには活動できる限界高度が定められています。現在、活動している自衛隊のヘリコプターは警察や消防のヘリコプターよりは限界高度は高いものの、それでも御嶽山の山頂の標高よりも低い2700mあまりが限界と定められています。つまり、あのヘリコプターは限界高度を300mも超える危険な場所で作業をしているのです。
ヘリコプターに詳しい人に言わせると「人命救助だから仕方ないが、信じられない」とのこと。しかも、不安定な挙動になってもおかしくない空中での安定したホバリングをしているのは、相当の操縦技術の持ち主でなければできないとか。そうした卓越した技術と強い使命感でこの捜索活動が続けられています。
私たちには知らされていないことが多い。それが意図的なのか、それともたまたまなのかはわかりませんが、人知れず行われていることには多くの人が知っておくべきこともある。報道されていることの多くは表面的な現象です。その裏側に何があるのかは報道されないことが多い。今、御嶽山でどんな過酷な捜索活動が行われているかを、我々は報道だけに頼らずにもっと知ろうとするべきです。その意味で、今のネット社会を大いに活用したい。自らリテラシーを高めなければ、真実は見えない時代になっているのです。
すべての行方不明者の一刻も早い救出と、捜索にあたる多くの人々の健康と安全をお祈りします。