とある父子の会話

とある家庭での会話です。他意はありません。とにかく聴いて(読んで)ください。

子:「新型コロナのワクチンって結局意味がなかったよね」

父:「なんでそう思うんだい?」

子:「だってあれだけの数の国民がワクチン打っても感染が治まらないじゃない」

父:「感染が治まるなんてのはまだまだ先のことさ」

子:「そろそろ勘弁してほしいよ」

父:「ほんとだな。日本だけじゃなく、世界中の人がそう思ってるだろうね」

子:「ワクチンを打ってもこうなるんだから、ワクチン接種なんてやめちまえばいいんだ」

父:「打ちたくなければ打たなくてもいいんじゃないか」

子:「今さらなんだよ。以前はワクチン接種を勧めていたくせに」

父:「『ワクチンなんて意味がなかった』って本当に思ってるんだね」

子:「逆に聴くけど、意味あった?」

父:「そりゃあったさ。ワクチン接種の効果は科学的にも示されているし」

子:「それじゃ、なぜ、今、こんなにたくさんの人が死んでいるのさ」

父:「怖い?」

子:「怖いに決まってるよ。この間の新聞にだって『過去最多の死者数』って書いてあったし」

父:「現象のほんの一面しか見てないとそう思うだろうな」

子:「どういう意味?」

父:「よく考えてごらん。100人の人が感染して1人の死者が出るのと、10000人の人が感染して
100人の死者がでるのとで違いがあるかい。どちらも致死率1%なんだよ。新聞が書いたように
後者は前者の100倍の死者数と大騒ぎするようなことじゃないでしょ」

子:「でも、感染者数は100倍になっているということは事実だと思うけど」

父:「その通り。それならそう書くべきでしょ。『感染者が100倍になった』とね」

子:「でも・・・」

父:「『感染者が100倍になった』という伝え方ではなく、『100倍の人が死んだ』と伝えるのは
間違っている。『100人の人が死んだ』かもしれないけど、『100倍の人が死んだ』わけじゃない
んだから」

子:「それなら『100倍の人が感染した』ってことは問題じゃないの?」

父:「状況によっては問題だろうね。たとえば新型コロナウィルスの感染がはじまったときのよう
  に致死率が比較的高いままの状況が続いているなら感染者数が増えるのはもちろん問題だよ」

子:「今の致死率は低いの?」

父:「そうだよ。今のオミクロン株は従来の季節性インフルエンザよりも致死率は低いとの言われ
ているんだ。そもそも感染当初の新型コロナウィルスと今のウィルスは似て非なるものといえ
るかも。だって遺伝子がかなり変異してきているからね」

子:「遺伝子が変異すると感染力は高まるけど、致死率は低下するってこと?」

父:「一般的にはその傾向があるとされている。でも、今の致死率の低下にはワクチン接種が広く
おこなわれたことも大きく寄与しているだろうね」

子:「『ワクチン接種をしても結局は感染しているじゃないか』って言っている人たちもいるよ」

父:「いるだろうな。でもそれは当たり前なんだよ」

子:「ええっ? 当たり前って・・・」

父:「だって今流行しているのはBA.4、BA.5といわれる遺伝子型をもつウィルス。でも、多くの
人が接種してきたワクチンはそれには対応していないんだからね。効果が限定的になっても
仕方ない側面もある」

子:「ワクチンを打ったのに感染してしまったら・・・」

父:「そもそもワクチンの効果には感染予防という側面と重症化予防という側面がある。新型コロナ
ウィルスのワクチンに限らず、完全に感染は予防できないものなんだ」

子:「感染してしまうワクチンなんて意味が・・・」

父:「感染を完全に予防できればいいけど、重症化を予防することの方が重要じゃないか。実際に
今の感染状況は『感染者は多いが、重症化する人は比較的少なく、亡くなる人はもっと少ない』
っていえる。これはワクチン接種を広くおこなった結果なんじゃないかな」

子:「中国はワクチンを接種してきたのにあれだけの人が死んでるよ」

父:「日本とはワクチンの接種率も違うし、ワクチンの種類も違うからね。中国製の不活化ワクチン
は、日本が使用しているmRNAワクチンよりも効果が低いとされていたからね」

子:「感染者もあれだけ増えて、薬屋さんから解熱剤がなくなったみたいだね」

父:「船戸内科医院の先生から聞いただろ。『むやみに解熱剤使わないように。発熱も大切な生体
反応だよ』って」

子:「TVで言ってることとちょっと違うことをいうから信じていいのかわからない」

父:「まともな医者は船戸内科医院の先生と同じことを言ってるみたいだぞ」

子:「結局、ワクチンは打った方がいいの?」

父:「致死率が低下した今となっては個人の判断だろうな。打たなければ感染確率も、重症化する
危険性も高くなる。接種しない人はそうしたことを受容した上で、さらに他人にうつさない
ようにことさらに配慮しなければいけないよね」

子:「『他人のためにワクチンを接種するのはゴメンだ』といっている人もいるね」

父:「残念だけど、そういう人がいても仕方ない」

子:「今の新型コロナは風邪みたいなものだから、ワクチンを接種しなくてもいいのかな」

父:「ワクチンを接種したおかげで、新型コロナに感染しても風邪程度の症状ですんでいる人が多い
みたいだね。でも、コロナに感染したのに自分は風邪だと思って感冒薬を飲んで会社や学校に
行く人がいて、そういう人たちがまわりに感染を広げているんだよ」

子:「船戸内科医院の先生は『風邪薬は風邪を治す薬じゃないんだから、こちらもむやみに服用
しないように』って言ってるね」

父:「風邪薬で症状が軽くなると『治った』って思っちゃうからね。だから、今は風邪症状があれば
新型コロナに感染したと思うべきで、そのかわり心配せずに自宅内隔離で安静にしていればいい
ようだね」

子:「すぐに検査をすれば安心だしね」

父:「いやいや。船戸内科医院のブログにも書いてあったけど、検査は『一番怪しいときにする
もの』らしいぞ。陽性のときにのみ意味があって、陰性だからと言って『コロナじゃない』
って証明にはならないらしい」

子:「ということは検査も意味がないってこと?」

父:「そうじゃない。重症化しそうなとき、つまり、肺炎になってしまったかもってときにこそ
検査が必要だってことらしい」

子:「でも、熱があると学校からすぐに『検査をしたか?』ってすぐに聞かれる」

父:「学校や会社はアリバイ主義だからな。検査の意味がまるでわかってないんだよ」

子:「検査をしないと学校にもいけないからなぁ」

父:「本来、風邪症状があったら学校や会社を休むべきなんだよ。他人にうつしちゃうからね」

子:「学校より病院にいくべきってことだね」

父:「でも、本来、風邪であるにせよ、新型コロナにせよ、特効薬なんてないからね」

子:「薬がない?」

父:「そう。基本的には家で安静にしていればいい。そうするしかない」

子:「それならなんでみんなは薬をもらいに病院にいくの?」

父:「それは『ツラい症状』を軽減する薬をもらいにいくんだよ」

子:「症状がつらくなければ薬はいらないってこと」

父:「そのとおり。家で安静にしていればいいだけ」

子:「それで具合が悪くなったらどうするのさ」

父:「そのときはかかりつけの医者に電話で相談すればいい」

子:「TVでは『風邪症状がでたら早めに病院へ』っていってるけど」

父:「早めに病院へ行ってなにをするんだい?」

子:「そんなこと素人にはわからないさ」

父:「病院に行くだけで、人からうつされたり、人にうつすリスクがある」

子:「なにがいいことなのかわからなくなりそうだ」

父:「確かに。でも、船戸内科医院のブログをもう一度読み直して整理してみたらどうだい」

子:「うん。そうするよ」

いい会話ですね。では、皆さん、くれぐれもご自愛ください。

スポーツのもつ力

新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。

TVでは箱根駅伝の様子が中継されています。毎年、お正月の恒例でもあるこの駅伝大会に、長い間、私はまるで興味がありませんでした。亡くなった父がかつて駅伝の選手だったにもかかわらず、です。しかし、以前のブログでも紹介したように、かつての勤務先の病院に入院中の奥さんを毎日見舞いに来られていた方が「箱根駅伝に出場した選手だった」ということを知ってから箱根駅伝の中継を見るようになりました。

私は小さいときから運動音痴でしたが、スポーツに興味だけはありました。小学生のころはテレビでよく放映されていたキックボクシングにはまっていました。当時、「キックの鬼」として有名だった沢村忠よりも「錦利弘(にしきとしひろ)」という選手が好きでした。なぜそうだったのかはわかりません。へそ曲がりだったのでしょうね(今もそうです)。彼の「電光回し蹴り」に胸をときめかせていたのを思い出します。

小学校の修学旅行はご多分にもれず日光に行ったのですが、私は宿で熱を出してしまい、夜は先生達が泊まっている大部屋に寝かされていました。そして、担任の先生や生徒達が夕食のために大広間に行っている間、私は校長先生とプロレスをテレビで見ていました。それまで近づきにくかった校長先生はプロレスファンだったらしく、高熱に苦しんでいる私にレスラーの説明をずっとしてくれていました。

中学に入る頃になると、いろいろなスポーツに興味を持ちはじめました。自分でやるというよりも、自宅の庭の芝生に穴を掘って、パターを自作してゴルフの練習をしたり、母から洋服生地の切れ端をもらってアメリカン・フットボールのボールを作り、友達とキャッチボールをしたりする程度でした。コツコツ練習をする努力も、長距離走のような「苦しい運動」も好きじゃなかったんでしょうね。

私が小学生から中学生だったころはプロ野球が全盛期でした。ジャイアンツのV9(9連続日本一)もありましたし、長島や王は子ども達のヒーローでした。子どもの頃の私はジャイアンツの大ファンでした。華やかな長島選手よりも淡々とした王選手が好きでした。しかし、あの「江川投手をめぐる空白の一日事件」ですっかり野球への興味をなくし、巨人が負ければどこが勝ってもいい「アンチ巨人」となってしまいました。

最近、部活の問題がしばしばとりあげられるようになりました。子ども達への鉄剤投与の問題もそのひとつです。記録が伸びないことを鉄剤の投与でカバーしようというものです。医学的にも問題が多いことが指摘され、コーチングのあり方として疑問が呈されている問題です。部活とは本来教育の一環として行なわれるべきです。しかし、行きすぎた結果至上主義は選手の健康を蝕むことにつながります。

運動誘発性無月経の問題も同様です。過剰な練習を続ける女子選手に無月経が起こることがあります。以前、スポーツ医学を専門にしている医師と連絡をとったとき、彼が「この問題が広く認識されていない」と嘆いていました。無月経が長期間続くとどんな結果につながるのかを多くのコーチが知りません。結果至上主義を全否定しませんが、「部活は教育だ」という視点を忘れてはいけません。

とはいえ、私はまともにスポーツをやったことのない人間です。その私が「たかが部活」と言ったところで、選手やコーチがどんな思いで練習をし、大会に挑んでいるかなどわかるはずもありません。私をアンチ巨人にしたあの「空白の一日事件」の江川投手にしても同じです。あの一件で彼がどれだけ傷ついたか。あの事件を背負いながら生きてきた45年の重みは誰にも想像できないでしょう。

来年の箱根駅伝は第100回を迎えるそうです。その記念すべき大会のシード権をめぐって選手達は大手町のゴールをめざしています。若い人たちがなにかに向けて頑張ることは素晴らしいことです。その結果がどうであれ、次の目標に向かって走り続けることが大切です。人生に「最終目標」などありません。良い結果も悪い結果も次につながる良い結果にしなければなりません。人生、万事塞翁が馬。今年も一年頑張りましょう。

 

年末に感じること

早いもので今日で2022年が終わってしまいます。ここ数年、日本のみならず世界中が新型コロナウィルスに振り回されてきました。しかし、この2月に始まったウクライナ戦争は、世界の秩序を乱し、世界経済にも暗い影を落としています。ウクライナの悲しい歴史を多くの日本人は知りません。ウクライナ国民の多くはスラブ民族ですが、奴隷を意味する英語の「slave」はこのスラブに由来しているのです。

新型コロナウィルス感染症は中国の武漢に起源するといわれています。新型のウィルス感染症が人から人に感染し、重症率も鳥インフルエンザほどではないにせよそれなりのものであることは当初からわかっていました。このウィルス感染症はまたたく間に武漢から中国全土へと広がり、絶好調だった中国経済の勢いに乗って世界中に拡散していきました。それからの惨状は皆さんもご存知の通りです。

その新型コロナがようやく落ち着いてきたかと思った矢先のウクライナ戦争です。ウクライナは世界有数の穀倉地帯であり、一方のロシアは原油や天然ガスをEU諸国に供給する主要な資源国。その両者の戦争が世界経済に大きな影響を与えないはずはありません。しかも独立国家が公然と独立国家に侵略するという国際法違反は、領土拡大を目指す他の覇権主義の国家を刺激してあらたな危機を作り出そうとしています。

そんな不穏な空気、漠然とした危機感を感じながら迎える年末です。自宅のちょっとした大掃除を終えてホッとしていても、ふと「今ごろ、病院ではたくさんの人たちが不眠不休で仕事をしているのだ」、「暖房もままならないウクライナの人たちはどんな新年を迎えるのだろうか」という思いが心をよぎります。来年こそは日本中の、そして世界中の人たちが新年を祝えるようになりますようにと祈るような気持ちです。

昨日の夕方、NHK総合では年末恒例の「ドキュメント72時間 年末スペシャル2022」が放映されていたので、それをただぼうっと見ていました。最近のテレビ番組にはどれも興味がわかないのですが、年末に放送されるこのスペシャル番組だけは不思議と見入ってしまうのでした。かつてはテレビ局に勤めてこうした番組を作ってみたいと思ったこともあったからでしょうか。

この「ドキュメント72時間」の中で紹介された「看護専門学校 ナイチンゲールに憧れて」はとてもよかったです。関西のとある看護学校での生徒達の姿を追ったドキュメンタリーでした。看護師という仕事に興味があって入学した人もいれば、「漠然とした気持ちで(入学した)」という人もいる。美容師やCA(スチュワーデス)からの転職だったりとさまざまな背景を持つ生徒の72時間を取材したものです。

私も一般大学を卒業してから医学部を再受験したひとりでした。北大の同級生にも、同じような境遇で入学してきた人が10名ほどいました。年齢もバックグラウンドもさまざまでしたが、北大医学部のいいところはそうした学生ひとりひとりの背景に誰も関心を持たないというところ。現役合格したかどうか、多浪生であったかどうか、そんなことにこだわる学生もいません。それが北大を魅力的な場所にしています。

この「看護専門学校 ナイチンゲールに憧れて」はとてもいい番組でした。皆さんは戴帽式というものをご存じでしょうか。昔の看護師はキャップと呼ばれる看護帽をかぶっていました。看護師という職業を象徴するようなもので、病院によっていろいろな大きさや形状をしていました。キャップを見れば病院がわかるほどでした。しかし、病院での業務の支障になるという理由で今ではすっかり見なくなってしまいました。

それまでの看護学校では、看護に関する座学が一段落し、いよいよ病棟での実習が始まるときにこの戴帽式がおこなわれます。看護師としての象徴でもあるキャップを学生に授与するのです。この式を通じて看護学生はいよいよ看護師になるのだという意識を高めます。私の妹も看護師なのですが、妹の戴帽式のとき、私も看護学校に行って式に出席しました。厳かな雰囲気の中でおこなわれた式はとても感動的なものでした。

しかし、看護師のキャップがなくなるにつれ、戴帽式も廃止してしまう看護学校が続出しました。看護師になることを自覚する機会にもなっている戴帽式。この戴帽式の意義が再認識されて復活させる学校も最近増えてきたとも聴きます。取材された学校でも戴帽式が行なわれ、看護学生としての区切りとなる戴帽式に出席するために苦悩・苦闘するさまざまな学生の姿はまさに青春ドラマそのものです。

この番組は看護師でもある家内と見ていました。そして、私は自分の医学生・研修医時代を、家内は看護学校時代と重ね合わせて見ていました。見終わったとき、私たちふたりの口から思わず出た言葉は「初心を呼び覚まされるね」でした。医療系の学校はうれしいことや楽しいことよりも、辛いことや精神的に苦しいことの方が多いのですが、それでも頑張れるのはやはり自分の仕事に対するプライドがあるからだと思います。

今も病院ではたくさんの人が働いています。新型コロナウィルスワクチンは無効だとか、打っても意味がないだとか。その一方で、新型コロナウィルス感染症による死者は最多になっていて感染は広まる一方だとか。雑音は実に勝手なものです。病院で治療に専念する医師や看護師、薬剤師やその他の病院職員はそんな雑音とはまったく関係なく、目の前にいる患者を救うためにこの瞬間も奔走しているのです。

ゼロコロナ政策から大転換した中国では、新型コロナウィルスがまさに感染爆発し、SNSでは病室はもちろん、遺体安置所や火葬場も不足しているという動画が飛び交っています。そして、薬を求めて病院の熱発外来に人々が殺到し、薬局からは解熱剤が姿を消す事態になっているようです。日本もあのような惨状にならないとはかぎりません。日本人ひとりひとりがよく考えて行動しなければいけないのです。

とある芸能人が「ワクチンを打てば新型コロナウィルスに感染しないといったのに、なぜ新型コロナの死者が過去最多になるんだ」とツイートしていました。社会に影響力を持つ有名人がこの程度のツイートをするのにも困ったものですが、それに乗じて騒ぎを煽り、社分を分断するような医者(医師免許をもっている人たち)の存在にも困ったものです。医者にもいろいろいます。まともなことを言うとは限りません。

新型コロナウィルス感染症で亡くなった人の数が過去最多になるのには理由があります。まずはそれだけ感染する人の数が多いからです。これまでも繰り返してきたように、ウィルスは遺伝子の変異のたびに感染力を高め、一方で致死率を低下させていきます。今の新型コロナウィルスは季節性インフルエンザウィルスとくらべても致死率は低いとされています。亡くなった人の数だけで判断するのは間違いです。

また、大手の新聞社が「直近3ヶ月の死者数は前年の16倍」という見出しで記事を書いています。この直近の3ヶ月と比較された昨年の状況はどうだったでしょうか。当時の新型コロナウィルスの感染状況はきわめて落ち着いているときでした。感染者は今とくらべてずっと少なかったのです。そんな昨年と今とを比較して「16倍も増えている」と不安を煽る報道の目的はなんなのでしょうか。推して知るべしですが。

このウクライナ戦争でロシア軍は国際法にもとる非人道的な行為を続けていることが報道されています。しかし、よく考えて見て下さい。ロシアがそのような愚劣な手段をとるのは今回のウクライナ戦争に限ったことでしょうか。第二次世界大戦のとき、不可侵条約を一方的に破棄して北方領土を侵略したとき、あるいは、日本人入植者を蹴散らしながら満蒙国境を越えてきたときに彼等がどんなことをしたのか。

いや、アフガニスタンに侵攻したとき、あるいは、シリア戦争のときのロシアによる軍事作戦だって同じです。今のウクライナでおこなわれていることや、それ以上のことがおこなわれてきたはずです。それを我々は知らされなかっただけ。報道(ジャーナリズム)の使命はそうした世界の「隠された真実」を明らかにすること。国民・市民にそれらをありのままに伝えることです。煽ることでは決してありません。

来年はいったいどんな年になるのでしょうか。少なくとも、世界中の英知を結集して、新型コロナウィルス渦から逃れ、世界に平和と協調をもたらさなければなりません。そのためには「真実」を知らなければいけない。なにが正しく、なにが正義なのか。形而上学的な議論によるものではなく、よもやマスコミの論調にながされるようなものでもない。自分の頭を使って真実かどうかを見極めるのです。私自身はそう努力し続けるいち年にしたいと思っています。

皆さん、佳い大晦日をお過ごし下さい。来年が皆さんにとってより素晴らしい年になりますように。
Prosit Neujahr !

風邪薬は不要

新型コロナ対策を緩和した中国では、感染が拡大して風邪薬が不足していると報道されています。そして、その中国に風邪薬を送るため、日本にいる中国人が風邪薬を大量の購入しているとのこと。こうしたことがまったくナンセンスだということを、このブログを読んで下さっている皆さん、あるいは当院に受診してくださっている人たちにはご理解いただけていると思います。

なんども書いてきましたが、風邪薬は「風邪を治す薬」ではありません。それどころか、風邪薬の中に含まれている解熱剤によってむやみに体温が抑えられて重症度が判断しにくくなります。人間は体温があがって免疫力にスイッチが入ります。つらいときであれば薬で解熱してください。たとえ熱があっても、つらくないのであればそのまま様子を見て下さい。体温は重症度を測る重要な情報です。

詳細はこのページの右上にある検索エンジンにて「風邪薬」で検索してください。これまでの記事を読むことができます。新型コロナウィルスに感染しても、肺炎にならないかぎり恐ろしいことにはなりません。肺炎になったかどうか、あるいは肺炎になりそうかどうかを判断するためにもむやみに熱を下げないで下さい。くれぐれも症状が軽いからといって風邪薬を飲みながら会社や学校に行かないでください。

最後に、薬局に風邪薬や解熱剤がなくなっても心配しないで下さい。あんなものがなくなってもまったく心配ありません。くれぐれも「なくならないうちに」などと薬局で買い占めるような恥ずかしいことはしないでください。あの震災のとき、スーパーから食べものがなくなったときのことを思い出して下さい。水が買い占められて赤ちゃんのミルクを作るのに困ったときのことを思い出して下さい。

今こそ、日本人としての矜持が試されています。

ああいう報道するなよな。

承認されたコロナ治療薬

塩野義製薬が開発した新型コロナウィルス感染症の経口治療薬「ゾコーバ」が緊急承認されました。このニュースがさまざまな報道機関から報じられていながら、肝心なことがまったくといっていいほど報じられていません。こうした新しい薬にすぐに飛びつく人も少なくないというのに、報じられない情報こそとても重要なのでちょっとコメントします。

このゾコーバは新型コロナウィルスに感染した人の中でも「軽症の患者」に処方されます。それは重症患者を治療する効果がないからです。それなのになんで安全性が十分に確認されてもいない薬を緊急承認しなければならないのか理解に苦しみます。いやしくもワクチンを接種していれば、今の新型コロナウィルスに感染しても、高熱はおおむね2日程度で解熱します。解熱を1日早める程度のこの薬、必要ですか?

しかし、もっと大切なことがあります。服用してはいけないケースがあまりにも多すぎるのです。一番重要な点は催奇形性をもっている可能性があるということです。ですから妊娠中の方はもちろん、妊娠の可能性がある方は服用してはいけないことになっています。ニュースでは単に「妊娠中の人をのぞいて」などという表現を使っていますがそんな甘っちょろいものではありません。

また、腎機能や肝機能が悪い人はもちろん、降圧剤や高脂血症の薬などいくつかの薬を服用している人には処方してはいけないことになっています。もし、この薬を処方する場合、医師は患者が飲んでいる薬をすべて確認して服用してよい患者かどうかを確認しなければなりません。お薬手帳をもっていない人も多い中、忙しい診療中にすべての服用薬を確認するなんてことが可能なんでしょうか。

以前のブログの記事にも書いたように、この「ゾコーバ」という薬は7月の厚労省の薬事分科会の審議で「申請効能・効果に対する有効性が推定できるものとは判断できず」と結論づけられています。そして、統計学的に効果があると判定できる症状だけに申請内容を変更して今回の緊急承認です。しかも、統計学を知っている人にはおわかりでしょうが、有意確率はP=0.04というのはあまり褒められた数値ではありません。

それでなくても新型コロナウィルスの治療薬は高額です。この「ゾコーバ」にどのくらいの薬価がついたかはわかりませんが、すでに使用されている経口薬は5日間で9万4000円もします。おそらくそれに近い値段がついたことでしょう。重症化するようなケースならともかく、「軽症な患者」にこんな高価な薬を使う必要性を私はまったく感じません。当然、私は日常の診療で処方するつもりはありません。

最後に、このような薬を緊急承認した厚労省はこう評価しています。「(ゾコーバの緊急承認は)重症化リスクのない患者に投与できる薬がなかっただけに意味がある」のだそうです。この意味、わかります?しかもこんな高価な薬を国はすでに100万人治療分をすでに発注していて、その後も適宜追加発注するんだとか。私にはまったく理解できません。処方希望の方はそうした背景をきちんと理解した上で服用して下さい。

繰り返しますが、当院ではこの「ゾコーバ」は処方しませんので悪しからず。だって、そもそも必要性を感じないんですもの。

情動主義

新型コロナの感染者数がにわかに増えてきて、「すわ、第八波か?!」という状況になってきました。新型コロナウィルスの感染状況がかわるたびにブログを更新してきた私ですが、最近の世の中の変化に対してなにかコメントを書こうという気力がわきません。それは今の感染状況に楽観的になっているからではありません。ワクチンをはじめとする医療体制に安心感をもっているからでもありません。そうではなく、このブログでこれまで繰り返してきたことをまた書かなければならないことに無力さを感じているからだと思います。

本年の7月24日に掲載した「烏合の衆になるな」という記事をまだお読みになっていない方は是非お読みください。私がこれまで(とはいっても、新型コロナウィルスの感染が拡大する以前から主張していることではありますが)に繰り返してきたことをまとめてみました。それらを読んだ皆さんがどうお考えになり、どう行動するかだと思います。必ずしも私の意見がすべて正しいと言っているわけではありません。医者の中ですらいろいろな考え方がありますから、私の意見を受け入れられないと思っている医者もいるはずです。

しかし、くれぐれも感情にながされた判断をしないようにしなければいけません。「怖い」「嫌い」「なんとなく」といった情緒だけで行動してはいけません。新型コロナウィルスの正体が徐々にわかってきたとはいうものの、ワクチンを打つべきか、打つべきではないかについての議論はまだ決着がついていません。マスクをすべきか否かについても明確な結論がでているわけではありません。そうしたことに対する考え方の違いが人々を、あるいは社会を分断する事態にもなっています。それらの分断もまた情緒的なものです。

情緒的であるが故に、生じてしまった人々の間の溝を埋めることはなかなか難しいように思えます。なにかの基準をもとに「良い、悪い」の明確な判断ができればいいのですが、新型コロナウィルスの感染に関する多くの社会問題には多少なりとも「好き、嫌い」という情緒が影響しています。「怖いからワクチンを打たない」「マスクをせずに歩き回る人たちは嫌い」「そのデータはなんとなく信用できない」など、個人の価値観や生活背景で判断することも少なくないのです。そこには思い込みもあるのでなおさら厄介です。

人々や社会の分断にもつながる今の状況を解決するためにも、私は「新型コロナウィルスを季節性インフルエンザと同じ感染症法5類に再指定する」ことが最善だと思っています。新型コロナウィルスは平成3年3月に「新型インフルエンザ等感染症」に変更されました。それまではエボラ出血熱などと同様に危険性の高い「指定伝染病」に分類されていました。しかし、あらたな分類になったとはいえ、「濃厚接触者」の定義はそのままであり、依然として検査をすることが前提とされている「怖いウィルス」のままなのです。

しかし、多くの人たちが複数回のワクチン接種を受け、ウィルスが変異を繰り返して毒性が低くなるにつれ、今の新型コロナウィルス感染症は季節性インフルエンザよりも重症率も致死率も低い年齢層があるという報告もあります。多くの先進国ではワクチンを接種する人々が減ってきており、国内のさまざまな規制や制約も解除されるようになってきました。いまだにまじめにワクチンを接種し、さまざまな社会活動をする際に「陰性証明」や「接種証明」を必要としている先進国は日本ぐらいだともいわれています。

そんな背景もあってか、最近では「ワクチンを接種しても意味がない」という意見とともに、「ワクチンは危険なものだから接種すべきではない」という声すら聴かれます。当院に通院する患者さんからも「さらなる追加接種をすべきでしょうか」と相談を受けることが多くなりました。そんなときに私はこう答えています。「マスコミにあおられて早く打つ必要はありません。確かに陽性者が増えていますが、重症者数の推移をふくめてもう少し様子をみてからでいいのでは。ワクチンの効果は数ヶ月で切れてしまいますから」と。

検査の陽性者が増えたとしても重症化するケースが少なければ恐れる必要はありません。先ほども言ったように、現在の新型コロナウィルスの重症化率や致死率は、従来の季節性インフルエンザのそれよりも低いとされています。これまでのインフルエンザには無警戒だったのに、マスコミの報道に煽られて今ぐらいの感染レベルで大騒ぎをするのは滑稽です。インフルエンザがどれだけ流行しても学級閉鎖すらしない中学校があったなんてことを忘れてもらっては困ります(いたたまれなくなった私は教育委員会に通報しましたが)。

どれほど恐ろしいウィルス感染かがわからないときは、多少のリスクも覚悟の上でワクチンを接種すべきです。その感染症でたくさんの人が亡くなっているのであればなおさらです。しかし、そのウィルス感染症の危険性が許容範囲となったとき、それでも従来のワクチン接種をなかば強制するのは間違いです。検査もまた同じ。当初から私が強調してきたように、いくら早めに検査をしても感染拡大を阻止することはできません。また、たくさんの人たちに検査をしても感染を終息させることができないことは今の中国が証明しています。

これも私が繰り返し言ってきたことですが、マスコミの報道や人のうわさに煽られてはいけません。できるだけ理性を働かせて、複数の意見を虚子坦懐に評価するように心がけるべきです。そのようなことが簡単でないことはわかっています。でも、「怖い」「嫌い」「なんとなく」という情緒で判断しないように努力することはできるはずです。情緒だけで行動することを情動主義といいますが、情動主義に陥るとことの本質を見誤ります。それだけではありません。情動主義は狂信的な人間をも作ってしまうところが恐ろしいのです。

今、世界は大きな変革期にあります。差別や偏見をなくすはずのBLM運動やLGBTがかえって社会を分断している現実を目の当たりにしています。新型コロナウィルスの出現によってあらたな価値観も生み出しましたが、大切なものを失うきっかけにもなっています。ウクライナでの戦争は世界秩序の危機をもたらすと同時に、平和のためになにが大切かを教えています。そうしたことの多くが、従来の価値観ではとらえきれないもの。それだけに我々は情動主義に陥らずに、できるだけ理性を働かせる努力をしなければならないと思います。

 

オミクロン株対応ワクチン

新型コロナウィルス感染症の流行(第七波)もだいぶ落ち着いてきました。感染者数は約1ヶ月前から減り始めていましたが、今や重症者数や死亡者数も減少を続けています。浮き足だったように騒がしかった世の中も次第に落ち着きを取り戻しつつあり、当院にかかってくる相談の電話もだいぶ減りました。

ワクチン接種も国民の8割の人たちが2回目を、6割の人が3回目の接種を終え、今は4回目の接種が進められています。2回目のワクチンを接種して5ヶ月が経過した時点での感染予防効果は50%程度(ファイザー社製)であり、発症予防効果はおよそ80%、重症化予防効果はそれ以上であることが示されています。

3回目のワクチンの接種が進行しているときに変異型であるオミクロン株の流行がはじまりました。そして、従来のワクチンがそれらオミクロン株に対して効果が若干劣っており、抗体価の低下が比較的早くはじまることがわかったことから、4回目のワクチン接種を前倒しでおこなうことになったのです。

当院でも4回目のワクチン接種をおこなっています。しかし、9月の半ばでファイザー社製ワクチンの供給がなくなり、すべてがモデルナ社製となりました。モデルナ社製のワクチンは副反応がやや多いという情報が広まっているせいか、モデルナ社製となってからワクチンを接種しに来る人の数もまた激減しています。

ワクチン接種者が激減している理由は三つあると思います。ひとつは前述したように、モデルナ社製であること。二つ目には新型コロナウィルスに感染する人の数そのものが減っていることがあげられます。もちろん、たくさんの人がワクチンを接種してくれたからこその効果だということを忘れてはいけません。

三つ目は、オミクロン株に対応するワクチン接種が始まることがあげられます。これまでのワクチンは従来型株に対するワクチン。新型コロナウィルスは途中から変異型遺伝子のB.A.2が流行し、先日まで流行していた株はB.A.5です。従来の株に加えてこれらの変異株にも対応する二価ワクチンが緊急承認されたのです。

いちぶの自治体ではこのオミクロン株に対応するワクチンの接種がはじまっています。4回目のワクチンとしてこの新しいワクチンを接種しようと現行のワクチンの接種を控えている人も少なくないはずです。そのせいか、当院での4回目のワクチンを接種しようと予約していた人にもドタキャンが増えてきました。

しかし、今いちどよく考えてみましょう。オミクロン株対応のワクチンは緊急承認された新しいワクチンです。もちろんこれまでのワクチンと同じmRNAワクチンであり、製法も多くの過程はほとんどかわりません。それが早期に承認された根拠になっています。でも、それで本当に安全だといえるでしょうか。

たくさんの人が従来にはない製法で作られた新しいワクチンを短期間になんども接種してきました。その短期的および長期的な安全性が十分に確認されないまま接種が進められました。それはその時点での新型コロナウィルス(COVID-19)が得たいの知れない恐ろしい感染症だったからです。

新型ワクチンは本来、その安全性を何年も検討してから承認されます。しかし、COVID-19が感染拡大しはじめたころ、いとも簡単に重症化し、たくさんの人が亡くなっているような雰囲気に世の中が包まれていました。日本のみならず世界が、忍び寄る目に見えない恐怖に騒然としていたのです。

そんなときに救世主として現れたのがmRNAワクチン。無毒化されたウィルスの破片を体内に注入するという従来のワクチンと異なり、ウィルスの遺伝子の一部をmRNAにして注射し、人のからだの中にウィルスのタンパクを作らせて免疫をつけるというまったく新しい発想でできたワクチンでした。

mRNAワクチンの利点は、遺伝子解析さえ完了すれがば比較的早くワクチンを製造できる点です。今回のオミクロン株対応ワクチンが迅速に製造されたのもそのためです。また、mRNAワクチンの副反応も当初心配されていたほどのものではありませんでした。当院でもヒヤッとするようなケースは一人だけでした。

現行のワクチンは世界中の多くの人が接種してきました。その数はこれまで存在していたどんなワクチンよりも多いものです。ですから、その安全性については、科学的見地からいろいろな報告がなされており、少なくとも重大な危険性はほぼないという結論がでているといってもいいでしょう。

しかし、このワクチンへの不安がぬぐえない人たちからは、ワクチンの長期的な影響を心配する声があがっています。免疫系に問題を生じるのではないか。あるいは遺伝的な問題を引き起こすのではないか、などとさまざまな懸念が示されています。もっともな懸念から荒唐無稽のものまで実にさまざまです。

長期的な問題点についてはこれからの解析を待たなければなりません。今はただワクチンの性質を考えて合理的、理性的な判断をするしかありません。ワクチンのリスクと新型コロナウィルスに感染するリスクを天秤にかけて判断することも大切です。それが「理性的かつ科学的に判断する」ということです。

これまで同じワクチンを何度も接種しなければならなかったのは新型コロナウィルスに感染するリスクをうわまわるメリットがあったからです。メリットとデメリットを勘案してのこと。しかし、今や、感染しても重症化することも、死亡することでさえも感染する人の数を考慮すれば限りなくゼロに近くなりました。

こんな状況になってもなおワクチン接種を強制するのは間違いです。ワクチン接種を前提に「なんとかキャンペーン」をすること、あるいはワクチン接種の証明書の提示を求めるといったことも同じ。With coronaという言葉が現実的に思える今は、ワクチン接種のあり方についてはもっと自由度があっていいはずです。

ひるがえってオミクロン株対応ワクチンのことはどう考えたらいいのでしょうか。冒頭にもお話ししたように、オミクロン株対応ワクチンは緊急承認されたばかりのものです。現行のワクチンの安全性を前提に承認されたにせよ、オミクロン株対応ワクチンそのものの安全性は十分に検討されたとはいえません。

新型コロナウィルスの感染拡大が落ち着き、ウィルスの病毒性も以前ほどではなくなった(ワクチンを接種しているということが前提ですが)今、そのオミクロン株対応ワクチンをあわてて接種する必要があるでしょうか。人は容易にマスコミからの情報に影響を受けます。ちょっと立ち止まって考えることが大切です。

患者さんから相談を受けたとき、私は次のようにお話ししています。「まずは4回目として現行のワクチンを接種してください。このワクチンも3ヶ月ほどで効果が弱くなります。そのころに第八波の流行がはじまったら、そのときにこそオミクロン株対応ワクチンの接種を考えればいいのではありませんか」と。

年が明けるころになれば、オミクロン株対応ワクチンの安全性に関するデータがでてくるはずです。問題なければそれでよし、多少なりとも大きな問題が生じているようであれば接種を控えることができます。慌てる○○はなんとやら。あおるような意見に左右されず、世の中の風潮にながされないことです。

ついに、ふたたび。

昨日(9月2日)の時点で、ついに青森県を除いた46都道府県で実効再生産数が1.0を切りました。東京にいたっては0.9を切る勢いです。これで今回の流行がピークアウトするのも時間の問題でしょう。しかし、油断は禁物です。しばらくは流行は続きます。どこで誰からうつされるかわかりません。うがい、手洗い、そして、TPOに応じてマスクをすることもお忘れなく。風邪症状はコロナ、と思って対応して下さい。

10月からはインフルエンザのワクチン接種がはじまります。今年はインフルエンザワクチンの供給量は潤沢とのこと。不足することを心配する必要はなさそうです。新型コロナウィルスワクチンとの同時接種も認められました。でも、私個人としては同時接種はお勧めしません。なぜなら副反応が生じたときどちらが原因かわからなくなるからです。少なくとも2週間はあけて接種することをお勧めします。

高齢者を対象に「オミクロン株対応の新型コロナウィルスワクチン」の接種もはじまります。その報道を知った人の中には、4回目のワクチン接種を控えてこの「オミクロン株対応」のワクチンを接種しようと考える人がいるようです。でも、これも私は推奨しません。それはこの新しいワクチンは「緊急承認」されたばかりのものであり、安全性が十分に検討されたものとはいえないからです。

今、4回目のワクチンとしてモデルナ製のものが接種されています。こちらでも十分に効果は期待できます。ただし、効果が持続するのは3ヶ月程度ともいわれています。とりあえず、従来のワクチンを4回目として接種し、来年になってまた第8波の流行となればそのときに「オミクロン株対応」のワクチン接種を検討すればいいと思います。それまでに不測の副反応の情報が出てくるかもしれませんし。

私も今日、職員と一緒に4回目の新型コロナウィルスワクチン(モデルナ製)を接種しました。今のところなんの副反応もありません。おそらく明日も問題ないような気がします。くれぐれもワクチン接種後に熱発があったからといってむやみに解熱しないでください。事前に解熱剤を服用するなんてもってのほかです。もちろん、高熱でつらいときは遠慮なく解熱剤を使ってください。こちらも冷静な判断をお願いします。

繰り返しになりますが

前回、「第7波もいよいよピークアウトか?」と書きましたが、お盆休みの帰省ラッシュの影響は無視できなかったようで、全国的に実効再生産数が低下していた感染者の数も帰省先となった地方を中心に増加に転じてしまいました。しかし、最近の感染者の推移を見れば、そうした増加傾向もやがては落ち着く気配があります。ふたたび実効再生産数が1.0を切る都道府県が増えてくるでしょう。

これまでの2年間を振り返ると、流行のピークに2週間遅れて重症者のピークが、さらに2週間遅れて死者のピークがやってきていました。しかし、今回の第7波の特徴のひとつは、一貫して重症者は増えていないという点です。あまりの感染者の多さに不安を感じていた人も少なくなかったかもしれません。でも、1200万人の人が住む東京都でさえ重症者は常に30人程度。要するに今の感染状況はその程度なのです。

「一日の死者が過去最高」と報道されています。でも、これだけ感染者が増えれば死者が増えるのもあたりまえです。問題なのは「死者÷感染者」で計算される「致死率」。実は今回の流行の致死率は、かつてのインフルエンザよりもずっと低いのです。ですから、あまりにも怖がっている人に私は「インフルエンザを怖がっていなかったあなた。なぜそれほどまでに新型コロナを怖がっているのですか?」と尋ねます。

今、咽頭痛や咳があって、いつもよりも体温が高ければ新型コロナ感染だと考えるべきです。でも、ワクチンを接種していれば高熱になることはあまりないようです。ですから、症状の軽重には関係なく、風邪症状があればむしろ「新型コロナウィルスに感染した」と考えて、他の人に感染を広げないような対応をとるとともに、家庭内隔離しながら肺炎になっていないか注意し、療養すればいいだけです。

多くの場合、検査など必要ありません。検査では「陽性」には意味があっても、「陰性」だからといって「感染していない」ことの証明にはなりません。「陰性」の結果が出た翌日に「陽性」となるかもしれませんし、二日後に陽性になるかもしれません。検査をむやみに要求する会社・学校が多すぎるのです。旅行をするにも「陰性証明」が必要らしいですが、そんな証明ができる検査があれば教えてほしいくらいです。

正体もわからず、予防法も治療法もまったくない頃と、今のようにワクチンもあり、重症になったときの治療法があって、しかも感染しても多くが風邪症状にとどまっている今とが同じであっていいはずがありません。人々の恐怖心をあおることを商売にする人がいます。する必要のない検査や飲む必要のない薬を勧める人もいます。正しい知識を持っていないと、そうした人のいいカモになるので注意が必要です。

いつかTVで見かけたのですが、病院に入院できずに自宅で療養する新型コロナ患者に心電図検査をする医者がいました。しかも診療費が高いモニター検査です。こんなもの本来は不必要です。また、食事もとれ、水分も補給できる患者に点滴だって必要ありません。たいした熱でもなく、軽い風邪症状で発熱外来を受診することも、またそうした患者に解熱剤を処方することも正直にいってどうかと思います。

当院に相談のお電話があったとき、軽症の風邪症状の方に私は「症状は軽いが新型コロナの可能性がある」「でも検査や薬は必要ない」「自宅内隔離で経過観察を」と説明する場合があります。しかし、そうした人の中には「じゃあ他をあたります」と納得しない人もいます。あるいは、「わかりました」と納得したように電話を切った人の中には、受話器の向こうで不満をもらしている人がいることも私は知っています。

かつてのインフルエンザのシーズンなどでも同じような光景を見てきました。「早すぎる検査には意味がないことが多いのです」「検査よりも自宅で安静が重要です」「感冒薬は風邪を治す薬ではありません」「解熱剤は辛いときに頓服で服用する薬です」。新型コロナウィルスが感染拡大してから言い続けていることは、インフルエンザが流行しているときから言ってきたことです。

ずっと私が言い続けてきたことの正しさを、今回の新型コロナウィルスの流行で理解してもらえたらいいのですが必ずしもそうではありません。「(医者が説明する)正しいこと」は必ずしも「(患者が)納得できること」ではないからです。まさに「理性は情緒には勝てない」ということです。医学的な知識をもっている医療従事者でさえ不安に振り回されている人がいるくらいなので無理もありませんが。

医学的に正しいことと正しくないこと、個人の判断に委ねていいものとそうでないものとの区別は大切です。これは日頃、私が診療する際に常に忘れないようにしていることです。患者の希望は尊重すべきですが、患者のいいなりになってはいけません。「医学的に正しいこと」と「患者の希望にそうこと」は必ずしも一致しないので悩ましい問題です。とくに今の混乱している新型コロナの診療においてはなおさらです。

医療・医学の知識や経験のない一般の人には見えないことがあります。誤解しているところもあります。それを正すのが我々医療従事者なのですが、その医療従事者の中にも「考え方の違い」や「立場の違い」があって、「言っていること」と「やっていること」が人によってさまざまです。それらも「ワクチンは打つべきか」「検査をするべきか」「薬を飲むべきか」について一般の人が混乱する原因にもなっています

いずれにせよ、マスコミからながれてくる情報にながされないようにして下さい。マスコミから発信される情報は正しいとはかぎりません。明らかな間違いではないにせよ、正しいことを正しく伝えてはいない場合がしばしばあります。情報の内容もさることながら伝え方に問題があることも。私の情報にしてもまた同じことです。私自身が正しいと思っていても、それを否定的に考える医者もいるはずですし。

いろいろな意見があっていいのです。しかし、どれが正しいかは自分のあたまで判断するしかありません。ただし、医学的なことをイデオロギーで判断してはいけません。科学は万能ではありませんが、思想や心情で考えてはいけません。「癌と戦うな」という勇ましいスローガンはその最たるものです。巷(ちまた)にながれるさまざまな情報を、自分の理性をフル活用して真贋を考えることが重要です。

 

 

ピークアウト?

先日のブログでお知らせしたように、ついに今日、全国の新型コロナウィルス感染者の実効再生産数が1.0を切りました。お盆休みの帰省が影響しなければ、第7波もピークアウトになるかもしれません。各都道府県の実効再生産数を見ても感染者が多い都道府県ほど実効再生産数が1.0を切っており、兵庫県を除いて上位12都道府県はいずれも1.0以下になっています。

【資料】新型コロナウィルス 国内感染の状況

感染の拡大が収束に向かうかも知れまでんが、まだまだ感染のリスクは高い状態が続きます。気を緩めずに、手洗いとうがいの励行、マスクエチケットを継続して下さい。そして、風邪症状のあるときは仕事や学校を休み、風邪薬(や鎮痛剤、解熱剤)を服用せずに自宅内隔離で経過観察すること。くれぐれも軽症なのに発熱外来を受診しないでください。症状がつらいときのみ対処療法薬を服用し、呼吸回数の多くなるような息苦しさや4日以上続く高熱があるときこそ発熱外来に電話で相談してください。

今、「ワクチンを接種しても新型コロナにかかっているからワクチンを接種しても意味がない」というデマが流れています。ワクチン接種から時間がたてば中和抗体が減少して感染しやすくなります。イスラエルのワクチン接種済みの医療従事者のうち、3回接種した人と4回接種した人でブレイクスルー感染をした人の割合はそれぞれ20%と7%でした。また、重篤なケースや死亡者はいなかったとも報告されています。ワクチンが無効だと思われるようなごく少数のケースをことさらに強調するデマに惑わされないで下さい。

その一方で、厚労省と日本小児科学会が勧めている「小児へのワクチン接種」に私は懐疑的です。以前にも申し上げたように、小児は新型コロナウィルスに感染しても重症化するリスクはそれほど高くありません。にも関わらず、免疫システムがまだ十分に発達していない小児に安全性が十分に確立されているとはいえない(治験の途上にもある)ワクチンを繰り返し接種することは、リスク(危険性)とベネフィット(効果)の観点からも「努力義務」を課すようなものではないはずです。

ワクチンは接種することも自由ですが、接種しないこともまた自由です。新型コロナウィルスが「恐ろしい感染症」と思われていた頃ならまだしも、今の新型コロナウィルスによる感染症はまるで風邪のようなものです。そんなときにワクチン接種を強いることはできません。4回目のワクチン接種がまさにそれです。私自身は接種する予定ですが、職員には自由意志に任せています。ただし、ワクチンの恐ろしさを強調して「ワクチンを打つな」と同調圧力をかけることも間違いですから念のため。

また、検査を過信することも間違っています。これもこれまで繰り返してきましたが、「検査は一番怪しいときにおこなうもの」です。難しい言い方をすると、「検査は事前確率をあげておこなうもの」なのです。医学部の学生でさえ誰でも知っているような基礎知識がなおざりにされています。「誰もが、いつでも受けられる検査」をまるでいいことのように言っている医者すらいるのには驚きです。検査は「陽性」であることに意味があっても、「陰性」だからといって「コロナじゃない」と言えないのです。

同じことを繰り返して「耳にタコ」かもしれませんが、「経過観察の重要性」「薬や検査の必要性」についてはあらためて考えていただきたいと思います。いずれにせよ、今の感染拡大には歯止めがかかりそうです。でも、再び流行が拡大するときがまたやってくるかもしれません。そのときのためにも、正しい知識を身につけて備えていただきたいと思います。